思えば彼女もスラム街に足を踏み入れた住人だ。
彼におびき出されたワケでもなく、ここがスラム街だと知っていて現れた。
それなら、彼女も住人で、異物なら殺しても問題ないだろう。
動かなくなった二つの異物を眺めて、白猫はそこから離れた。
思えば彼女もスラム街に足を踏み入れた住人だ。
彼におびき出されたワケでもなく、ここがスラム街だと知っていて現れた。
それなら、彼女も住人で、異物なら殺しても問題ないだろう。
動かなくなった二つの異物を眺めて、白猫はそこから離れた。
白猫は、ある屋敷の前に立ち尽くしている。
何のために?
わかっているよ。
やることは、決まっていた。
ここはあの少女の家だ。
熱い雲が月を隠す。
それを合図に、足を踏み出す。
いやっしゃいま………
ドアマンが言い終わる前に飛びかかる。
ひぃ
死を待っているだと? ふざけるな
あああああ
スラムの住人だってな、必死で生きているんだ
………っ
見つけた人間を手あたり次第に殺した。
そして、最後には誰もいなくなっていた。
なんて静かな夜なのだろう。
スラム街に戻ると、住人が気まずそうに白猫を出迎えた。
どうしたの?
オマエ、人間を殺したのか
………まぁね
すぐに伝わるだろうと思っていたが、想像以上に早かったらしい。
それにしては、住人たちの視線がおかしい。
アイツらには手を出すな……そう、言い聞かせたはずなのに、どうして
だって、赦せなかったんだ
だからって、だからって………
何かあったのか?
何かって、お前……
青年は目を見開くと、哀れむ様な視線を白猫に向けた。
広場に行ってごらん
感情のない声が、そう告げる。
?
言われるがままに広場に向かっていた。
あれ?
違和感に首をかしげた。
広場ってこんなに広かったっけ
灰になったんだ
え?
この辺にあった、露店が燃えて灰になった。だから、広場が大きくなったように見えるだろ。並んでいた建物も、中にいた住人も、みんな、みんな灰になったからな
親切心と皮肉が混ざったような声色に眉根を寄せる。
一体、誰が?
このスラム街を管理していた連中だ。誰かさんが、その管理人の一人の家を襲ったからだろうね。意趣返しみたいなものかな
何で。ボクを見るんだ
お前の顔……それはケチャップじゃない、血だな
…………これは、ケチャップだ
…………そういうことにしてやるよ
皆の見る目が怖くなった。
白猫は強くて、皆から恐れられていたはず。
それなのに……
怖くなって、逃げ出した。
我武者羅に走り回った。
行く場所なんて、ないのだ。
戻る場所だって、なかった。
そして……
お前、一人なのか……?
その人間は死人の様な目で白猫を見ている。
………
おれも一人だ。一緒に来るか?
ああ
あの日、二人の一人ぼっちが出会った。
これがボクの罪だよ
へー
ヴァイスの独白を、シュバルツはただ聞いていた。
会った時のような死人の様な目じゃないけど、何を考えているのか読み取れない視線を向ける。
軽蔑したよね
別に?
え?
お前の行動で誰かは助かったんだ。放っておいたら、そのオムレツ女にスラム街は滅ぼされていたかもしれないし
確かにそうかもしれない。
別にその為に、彼女や彼女の家族を殺したわけじゃない。
全ては傲慢な自分の意思でしかなかった。
………
当然、お前を恨んでいる奴は居るだろうな。それは事実だから受け入れなよ。だけど全員がお前に敵意を向けた?お前が勝手にそう思ったんじゃないの?
あ………
誰かはお前を逃がした。そうじゃなきゃ、スラム街の住人全員を相手に逃げ切れると思うのか?
言われて気付いた。
あの時、白猫ヴァイスの所為で済む場所も命すら失った住人もいたのだから。
自分が生きていることがおかしい。
どうして生き延びることができたのか。
それは、誰かが逃がしてくれたからだ。
そうだよね。でも、ボクはどうすれば……
だから、お前はおれの弟として生きればいいだろ。一緒に行こうよ。恥ずかしいこと、何回言わせるんだ?
目を反らしながら吐き捨てる。
照れている。
それは、伝わって来た。
そうだね。ありがと……
お前はスラムに戻らなくて良いんだ、進むだけでいい。振り返って後悔したところで何も変わらない、誰も救えないよ
シュバルツはそう呟いて目を閉じる。
きっと、自分自身にも言い聞かせているのだろう。
ヴァイスは一歩前に出て、虫と対峙する。
返せ
返せ
≪返せ、家族を、生きる場所を……オマエが奪った≫
ボクは罪を受け入れている、だけど、ごめん……。進ませてもらうよ