おなべでコトコトあたためた、はちみつ入りのホットミルク。

顔を描いたマシュマロをぷかぷかと浮かべると、千乃スペシャルの出来上がりである。

千乃

はふはふ

千乃

えへへ、美味しくできたぁ

一口飲んでみると甘さにほぅっと体が熱を持ち、あったかくなる。

しかし、その直後にぶるりと震えてしまう。

千乃

あー今日は冷えるねぇ。ねむたくなるぅー……

千乃

えーい、ふかふかするぞぉ

千乃は足元にいた飼い犬の雷神を、ぎゅぅっと抱きしめた。

ふかふかもふもふしていて、千乃にとって至福のひとときである。

雷神の方は――

くぅん

と、元気がなさそうに鳴いた。

千乃

……雷神、くたくたしてるのかな?

木枯らしが窓をたたく音が聞こえる。

寒そうだ。

いつもなら絶対に外に出ない。迷わず毛布をかぶる。

千乃

んー……おさんぽ、行ってみる?


けれど千乃は、リードを持ってきて声をかけていた。

千乃

雪、ふるといいねぇ

毎日、服をたくさん着こんで外に出る。

* * *


* * *



――今日も事務所に、安定のコタツである。

千乃

プロデューサー、用事って何かな?

プロデューサー

うん、突然呼び出してごめんね

留奈

そうよ、なんでこの面子なのかしら?

僕が事務所に呼び出したメンバーは、千乃、留奈、そしてミユの三人だった。

楓も当たり前のように、おぼんを持って立っている。

ミユ

千乃ちゃんのコタツ、ええなあ

千乃

えへ、入ってもいいんだよ?

ミユ

んふー。そっかー、あー、誘われるぅー引き寄せられるぅー


ミユがもぞもぞと、千乃のコタツの中へと入って行く。

あたたかいおちゃを用意します

ミユ

楓ちゃんありがとな?

ミユ

ほわーあったかいー。幸せー。あー…眠い……

留奈

ちょっと柚木、アナタまで羽田の味方をしないでくれるかしら

ミユ

まぁまぁ、留奈さんも一緒に入ろ? 一度この堕落を味わえば奈落の底までまっさかさまやで、人生終わるわ

千乃

くたくたぁ

留奈

くっ……あっさりと羽田の術中にはまっているわね……

留奈

こうなったら…楓! 例の通りにいくわよ!

しょうちしました

留奈

留奈はぜったい、そんな誘惑には乗らないんだから!

留奈

プロデューサー、さっさと要件を話してちょうだい!

プロデューサー

う、うん。ちょっと僕も、クリスマスイベントについて色々考えて

主に寒がってコタツから出てこない千乃の問題について考えていた。

千乃もやる気がないわけじゃないだろうけれど、冬の野外で、しかも夜となると、寒がりな千乃のモチベが無意識レベルで下がってしまっている危険があった。

特に千乃は気分でパフォーマンスの良し悪しが変わる部分があるから、気をつけないといけない。

プロデューサー

千乃にね、クリスマスイベントのライブ演出を考えてもらおうかなって思ったんだ。アイドルが演出協力してくれたとなればプロモーションにもなるし

千乃

ライブ演出?

プロデューサー

うん。千乃はクリエイティブ方面のことが好きだし、演出を自分で考えたら楽しくライブができるんじゃないかなって

千乃

わぁ、楽しそう、やるやる!


コタツが喜んでくれた。

思ったとおりだ。千乃は楽しそうなことを示してやれば、乗り気になってくれる。

留奈

へぇ、プロデューサー、なかなか考えてるじゃない

プロデューサー

それで、千乃だけがライブの練習以外に別の仕事が増えちゃうことになるから、サポートを留奈とミユにお願いできないかなって

プロデューサー

……ところで、楓はさっきから何をやっているの?

楓がコタツから点々と少しずつ離して、キャンディーを配置している。

まきえです

千乃さんをこたつからさそいだす、わなです。ちのさんは、甘いものがすきなので

プロデューサー

で、出てきてくれるといいね……

ミユ

ライブ演出かー、はむはむ

留奈

各ユニットから一人ずつ、ライブ演出を考えるメンバーを選出したってわけね

留奈

って柚木、なんでみかんを食べてるのよ!?

ミユ

そこにみかんがあったから…? あー、おなかいっぱいやー

小食なミユの食事シーンは何気にレアかもしれない…。

千乃

へへへーお菓子もたくさんあるよ

さくせんしっぱいです

コタツの上の籠に、大量にお菓子やみかんが盛られていた。

床にまかれたキャンディーがかすむ。

相変わらず、千乃はどこから何を出してくるか分からないな……。

ミユ

ほらほら、プロデューサーもぼうっと突っ立ってないで、入ったらええやん?

ミユ

コタツに入ってても話し合いはできるし

プロデューサー

う、うん、なんかすごい寒いね

なぜか唐突に空気の冷たさに耐えかねて、僕はふらふらとコタツの中へと入っていってしまう。

足元からじんわりとあたたかく、包まれている安心感があった。

プロデューサー

ああ……日ごろの疲れが癒されていく感覚だね……

留奈

プロデューサーまで!?

……だんぼうをいれて千乃さんをコタツからだそうとおもったのですが

まちがえて、れいぼうをいれてしまったようです

留奈

どうりで寒いはずだわ!

またもさくせんしっぱいです

わたしも寒さにまけました

結局、楓もコタツに入ってしまった。

ミユ

残るは留奈さんだけやな?

千乃

ふっふっふー、かもーん

留奈

なんであなたたちは、共謀している感じになっているのかしら!?

ちょっと人選ミスだったかなぁ、と思いつつ、僕もみかんの皮をむきはじめてしまっている。

留奈

る、留奈はここで話すわよ!

じゃっかん涙目になっている。さっきから意地になってしまっているようだけれど、寒さで足が震えているようにも見える。

留奈

ラ、ライブ演出……そうね。定番はやっぱりドライアイスじゃないかしら

留奈

ミラーボールを使って、舞台をキラキラさせるの!

留奈

そしてゴンドラにのって留奈たちが登場するのなんて、どうかしら!?

ミユ

わあ


ものすごく平坦な感想だった。

千乃

んー……端末と連動させて、会場の人たちとプロジェクトマッピングを楽しむのとかどうだろ?

千乃

LED発光するリストバンド配ってみんなでキラキラさせるとか、確か安いのが売ってたよね

千乃

クリスマスだし、ファンの人たちといっしょにイルミネーション関連を凝ったら盛り上がりそう~

留奈

へえ、な、なかなかいいアイディアじゃない

ミユ

自分、千乃ちゃんの言ってること、よー分からんわぁ。なんか凄いことだけがわかる…。留奈さんは分かる?

留奈

あっ、当たり前じゃない!? ちょっとライブ演出として古典的すぎるくらいねっ

プロデューサー

……千乃のアイディアはいいと思う。ただ派手にイルミネーションを演出するとなると、会場の規模感的に厳しいかな

千乃

そっかぁ残念……。じゃあこういうのは?


千乃は小型の端末を取り出した。

空間に、雪の結晶がぽよんとうまれた。

ミユ

わぁ、これなんなん!? すごっ

きれいです

千乃

ふふふー。投影型MR装置だよー。まだ高いから持ってる人そこまでいないけど、空間に立体的な映像を手軽に投影できちゃうんだよ

千乃

千乃の持ってるのは小型だけど、大きいのを使って夜空に雪を降らしたいな

プロデューサー

……それも、予算的に無理があるかな

千乃

ぶー。つまんない


千乃はふくれて、またもコタツにこもってしまった。

千乃

千乃は雪が降らしたいな。じゃないと野外はやだー

留奈

ああもう、羽田はちょっとワガママすぎるんじゃないかしら!?

ミユ

まーまーまー、留奈さん

ミユ

まだ時間はたっぷりあるし、ライブ演出も考えはじめたとこやし

ミユ

三人でゆっくり考えていこ?

留奈

うぅ……

ミユ

ほら、もうプロデューサーなんてうつらうつらしはじめてるで?

プロデューサー

い、いやいや、そんなことは…

ミユ

ええんやで

千乃

ぬくぬく癒されるがいいんだよ。プロデューサーは疲れてるんだもん


ミユと千乃の二人が、凶悪な何かに思えてきたよ……。

留奈さん。わたしのとなりがあいています

いっしょにはいってくれませんか……?

楓がおねだりするように、愛らしく小首を傾げて言ってくる。

留奈

はぅっ……し、仕方ないわね!


とうとう留奈までもがコタツに入っていた。

結局全員でぬくぬくぽかぽかしてしまっている。

こんな調子で、はたしてライブに間に合うのだろうか……。

第2話 ライブ演出をしよう!

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