そこで、違和感を抱く。目の前のヴァイスの言う罪と、シュバルツの考えている罪が一致しない。

シュバルツ

メイド? いや、あの女は死んでないだろ。怪我はさせたからビビったけど

ヴァイス

え? 死んでいない? でも君はあのことがあったから

 確かにメイドを突き飛ばして大怪我をさせた。

シュバルツ

もしも死んでいたら、出頭するよ

ヴァイス

そ、そうなの?

シュバルツ

当たり前だろ。悪いことをしたら謝れって言っているのは、おまえ……

 ふと、目の前のヴァイスをジッと見る。
 しばらく考えてから

シュバルツ

メイドに怪我をさせた。何で、そのことを知っているんだよ。あれは誰にも見られていなかったはず。執事には報告したけどさ

 怖くなって数日間、家出をした。誰も心配しないだろうけど怪我をさせたメイドのことが気になって執事と一度だけ会っている。彼は猫アレルギーだから、シュバルツひとりで。
 執事からメイドは怪我をしただけだということを教えて貰った。安心した。だけど、家の中で色々なことが起きたから暫くは帰らない方が賢明な判断だと告げられた。
 それならば、しばらく家出生活を満喫しようと……

ヴァイス

………どうしたの?

シュバルツ

………ヴァイス

シュバルツ

お前は

「何なんだ?」

ヴァイス

え?『ヴァイス』でしょ

 彼、ヴァイスは満面の笑みで答える。

シュバルツ

……………そうか

―――ああ、全部、思い出したよ

シュバルツ

そうだよな…………お前ではおれの本当の罪を知らないよな

ヴァイス

え?

シュバルツ

話したこともないからな。

ヴァイス

シュバルツ

だって、お前は……あのヴァイスじゃない

ヴァイス

何を言っているんだ? ボクは……

シュバルツ

お前はおれが連れて来た猫なんだ

ヴァイス

 ヴァイスが息をのむ。

シュバルツ

お前は小汚い野良猫。双子の兄の代わりにするために連れ帰った………。だから、名前もヴァイスにした。おれがメイドに怪我させたときに側にいたのはお前だった

 あの日、拾った猫に名づけた名はヴァイスだった。それは双子の兄の名前。バカバカしいと思う。そんなことをしても、何の罪滅ぼしにもならないのに。彼だけじゃない、拾った動物につける名前はいつもヴァイスだった。
 いつも【ヴァイス】は最後に死んだ。

ヴァイス

そうだ、だけど、それでもボクはヴァイスだ

シュバルツ

それは間違ってはいない

 メイドに怪我させたこと、メイドが小兎を殺している現場を目撃したこと。
ここは叔父の空き家になっている屋敷だ。執事から鍵を預かって、拾った猫を連れて中に入って……
誰も来ないって知っていた。

 ここまでは思い出せた。だけど、なぜか辿り着いた後の記憶は今も曖昧だ。

ヴァイス

ボクは、君を追いかけただけ。魔法使いが現れて、人間の姿になれるって言われたから………それじゃあシュバルツの大事な人の姿が良いなって思ったら、この姿になっていた

シュバルツ

そうだった……現れた魔法使いに頼んだ。忘れたい、何もかも忘れたいって。ヴァイスにしてしまったことを忘れたいって。それはきっと忘れちゃダメだったんだ。

ヴァイス

ヴァイスにしてしまったこと?

 首を傾げる彼に笑ってみせる。

シュバルツ

話してやるよ。おれの罪をね。

ヴァイス

…………き、君たちは仲が良かったのでは

シュバルツ

バカ言うなって。ヴァイスの顔でそんな気持ち悪いことを。

ヴァイス

シュバルツ?

 珍しく嘲笑するような笑いにヴァイスはゾッとする。今までヴァイスが主導権を握れたのは、彼はヴァイスのことを兄のヴァイスだと思っていたからだ。
 今は違う。今のシュバルツはヴァイスの飼い主だ。飼い主を支配することは出来ない。

シュバルツ

あいつとは、いつも喧嘩していたよ。

 仲良くしようとすれば、出来ただろう。
 だけど……出来なかった。
 大人になれば離れられる。
 それまでは我慢しようって思っていた。
 彼は優秀で勉強もできるし運動神経も良かった。
 彼は優しくて、誰からも慕われていた完璧な男だった。

シュバルツ

同じ顔をしているのに、おれは出来損ないだった。

シュバルツ

だから、いつも思っていた……

「あんな奴、いなくなれば良いんだ………って」

20 Who~何者 (黒猫の話)

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