薔薇園。
その単語を聞いて、真っ先に浮かんだのが実家の薔薇園だった。唯一の憩いの場だった場所。その場所で何かがあった。それを、思い出す。
薔薇園。
その単語を聞いて、真っ先に浮かんだのが実家の薔薇園だった。唯一の憩いの場だった場所。その場所で何かがあった。それを、思い出す。
やっぱり、おれは何かを忘れているのかな
軽く深呼吸をしてから渡された小さな鉈で虫を潰した。こんな作業をさせられるとは思わなかった。
デュークから聞いていたし、アークからも忠告されていた。だから覚悟はしていた。
≪見ていたよ、君の所為で●んだ≫
その声は虫の死骸から発せられている気がした。くぐもった声。思っていた以上に気味が悪い。自分にだけ聞こえる声だ。自分の過去や、忘れたかったものと向き合うとは、こういうことなのかもしれない。
?
≪事故ではないよ、君には殺意があったから≫
気のせいではない。また、聞こえる。忘れていた、忘れたかった、もう思い出したくない、あの日のシュバルツの罪を突き付ける。
声は目の前の虫から発せられているのに、背中に【何か】が這って接近しているような感覚。
ちがう……あれは、事故だ
苛々していた。何かが背中に這い寄ってくる感覚があるのに、それでも目の前の……………そうだ、虫を力強く虫を潰した。
そうだ、あれは事故だ。
≪事故かもしれない、だけど君は嬉しかったよね。これで愛情を独り占めできるのだもの≫
今度は鮮明に声が頭に響く。はっきりと聞こえる声。
ちが……
≪違う、と言ってくれる人は居ない。その唯一の人を君が殺したから≫
虫を潰していない。だけど、その声が頭の中で嗤う。
…………
違うと否定する代わりに目の前の虫を鉈で叩き潰す。いつものように、誰にも言えない憎しみや妬みを弱者に叩きつける。
≪そうやって、君はいつも植物を、無残に切り裂いたね? 僕たちを無慈悲に殺していた。
彼への憎しみをぶつける先がないからって。それでも……………君は満足出来なかったんだ。だから、彼を………≫
…………
≪君はたった一人の理解者を、自分の手で潰したんだよ。お前の所為で≫
虫の声が、何処かで聞いたことのある声に変貌。どうして、この声が聞こえるのだろうか。
それに、おかしい……これは最近聞いた声のような気がする。だけど……………凄く懐かしい。おかしい。何で、懐かしい。
何言っているのか、わからないけど。黙れ、虫
プチっと、それが潰されると静寂が訪れる。
静寂の中で思考する。潰された声と、潰した声、どちらも同じ声だった。
これで、わかったかな? 外に出たいなんてバカなことを考えたらダメだって
……ヴァイス、お前
じっくりと彼を見る。
この張り付けたような笑顔。この笑顔、どこかで見た気がする。ずっと、一緒なのだから当然だ。
ずっと?
いつから?
だって、こいつは……
どうしたの、顔色が悪いよ
心配そうに眉を潜める。それすらも、懐かしい。
そして、
そうされることが、鬱陶しかった。
……兄貴面するなって、いつも言っているだろ
え?
いつものように不機嫌に歪んだ目で彼を睨む。そんなことをしても、コイツはヘラヘラとして………いない。何故だ、不思議そうに目を見開く。白々しい顔をしないでくれ。
おれは、初めからヴァイスに憑かれていたのか?
な、何を言っているの?
ヴァイスは目を瞬かせる。
やっぱり、ヴァイスはおれを恨んでいるんだな。だから、こうやっておれの前に現れておれの足を引き留めていた
だから何を? 君の罪はメイド殺しの罪だよね。この薔薇園、ボクたちの庭と同じだ。ここで、君は彼女を殺した………そして君はその罪の意識に………
ヴァイスが声を荒くする。