空は闇に覆われている。

 夕陽が残していったオレンジ色は
稜線の彼方に消えた。

灰味がかった時計塔も、
白く砂埃が舞う道も、
空と同じ色に染まっている。























鐘の音が聞こえる。

腕時計を見ると


午前一時を少し回ったばかり。

また遅れてる


あの時計塔の音は
近隣住民も時報代わりに使っている。

直すように言っておいたほうが
いいだろう。

前にも言ったばかりなのにな


古い時計だ。
もう寿命なのかもしれない。

そういや、あいつは修理ばっかりやってるな



この数ヵ月
顔を合わせていない同居人を思う。

確か、侯爵家から来た自動人形の修理に
かかりきりになって……

……



なにかが揺れるような音が聞こえた。

振り返ってもなにもない。
誰もいない。


気のせい……か?


























 晴紘は門をくぐる。

もう夜だと言うのに……いや
深夜と呼ばれるような時間帯に
なってしまっているからだろうか。

門燈は点いていない。





 玉砂利が靴底で鳴った。

砂利だから

と鳴るんだな、などと、
この家に住むゴシックドレスの少女が
眉をひそめそうなことを思う。

 


























ただい、

 玄関を開けようとして抵抗にあった。

いつもなら
すんなり開いてくれる扉に
鍵がかかっている。

留守、なのか?


急に依頼があって
出かけてしまったのだろうか。


いつもなら紫季がいるし、
そうでなくても
晴紘が帰宅するまでは
いつも開いている。


帰宅が深夜になってしまうなら、
その間ずっと。





不用心だから
鍵はかけておいてくれていい、と
言っているのは
むしろ晴紘のほうだったりする。

……困ったな

 
そもそも鍵をかけない家だったから、
晴紘も鍵を持つ習慣がない。




 つまり、入れない。




 いつもの納品のように
彼らの帰宅が明朝だったりしたら、
この玄関の前で
飲まず食わずのまま
呆けていなければならない。















まずいな。
それは確実に風邪をひく









駅まで戻れば
居酒屋と食堂を兼ねたような店があった。
まだ開いているだろう。

そこで時間を潰すべきだろうか。















次に家賃を滞納すれば











追い出すだけでございます

と、脅されていることもあって、
給料日前の無駄遣いは
避けたかったのだが。


しかし風邪をひいては元も子もない






逡巡していると、
扉の硝子の向こうに人影が見えた。







【参の壱】平行世界・壱

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