すれ違う人の群れの中に、
ふと
自分と同じ顔を見たような気がした。




向こうは気付かないまま
通り過ぎていく。




あれがもし
あの日の自分だとしたら。








晴紘は足を
そのまま
駅裏の工事現場へ向けた。
























































青いビニールシートと
錆びた鉄板を
重ねて作ったような塀の向こうに

”それ”は、いた。










そしてその向こうに

大庭くん!?

一昨日、
ここで発見された彼女がいる。

生きて、俺を見て
俺の名を叫ぶ。





だが
いつもの強気な面はどこへやら。

壁際に追い詰められている彼女は、
その場に
縫い付けられてしまったかの
ように動かない。








彼女の前に立ち塞がっている影は
晴紘に背を向けたままだ。



目を逸らした隙に
獲物に逃げられるのを
懸念しているのか

女史の声が聞こえなかったのか



それとも
この場にいるはずがない晴紘だから
認識していないだけなのか

木下女史には見えているのに?

わからない。

わからないが
気づかれていないのならそれでいい。






















晴紘は再び
人影に目を向ける。















黒のマント、
黒のシルクハット、
もちろん靴も黒。



まるで流行りの小説に出て来る
怪人のようじゃないか。


顔は見えないが
三日月のような弧を描く口で
笑っていれば
いかにもそれらしい。
























その怪人の手元が
月明かりを受けてきらりと光った。

それと同時に
左手が

木下女史の首を掴む。






まずい




怪人は背を向けている。


木下女史の目は
ずっと晴紘に向けられている。

助けてくれ、と懇願している。















このままでは彼女は殺される。

明日の朝
両足を切断された状態で発見される。
 









でも、今なら。












今なら
まだ、助けられる。


















大庭、く……

















手を出すことは叶いません

紫季の言葉が脳裏をよぎる。




でも




大、庭……く……

俺は
見ているだけでいいのか?

目の前に
救える命があるのに。
































本当に
手を出すことは叶わないのか?






























俺は――。










【弐ノ参】十一月六日・弐

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