と、リズムを刻む音がする。



これは時計塔の歯車たちの
奏でる音ではない。

どちらかと言えば
列車が通り過ぎる時のような……。















































































プァーン、というクラクションの音と
いきなり当てられた眩しい光に、
晴紘は後ずさった。

その鼻先を

勢いよく車が走り抜けていく。






















ここ、は……?


時計塔ではない。
屋外。それも高架下。

人通りも街灯も無いが
それはここだけの話。

少し先は煌々と照らされ、
家路を急ぐのか
どこかへ行くところなのか

さまざまな服装の人たちが
通り過ぎていくのが見える。
















吹き飛ばされてきた新聞が、
足に引っ掛かかった。


爪先でそれを剥がして見ると、

十一月六日

と見て取れた。


六日……


それは一昨日の日付。






























ただ単に
古新聞だと言うこともあり得る。

しかし、紫季の

過去をお見せ致します

と言う言葉が引っ掛かった。

場所が変わっているのも
その疑惑に拍車をかける。

































もしや、本当に
過去に来たでも言うのだろうか。

























しかし
何十年も何百年も
遡っているわけではないからか、
そんなに危機感は感じない。


きっとこの世界にも、
灯里や紫季や
木下女史がいる。


記憶のままに道を辿れば
帰るべき家があり、
温かい食事が待っている。


煎餅蒲団ながら寝る場所もある。

金は財布に入っているものが
そのまま使えるだろうし、
言葉だって通じる。


勤め先に行けば
見慣れた顔が迎えてくれる。

戻れなかったらなかったで、
そのままここにいても
なんの不都合も感じない。


しばらくすれば
過去に戻ったことすら夢だと思うだろう。




そんな奇妙な安心感さえある。

この世界の俺と居場所を争うことになることだけが厄介なんだけど

しいて不安を上げてみたところで
小説の中でしかあり得ないような
現実味のないものしか
思い浮かばない。




現実と虚構の区別もつかないのか?

と、失笑さえ漏れそうになる。


















 






















高架の上を電車が走り抜けていく。

乗るつもりなのか
数人が急ぎ足になる。

……今、何時だ?




晴紘は時計を見た。

午前〇時〇五分。

一昨日の自分が
木下女史を駅まで送った時間。




























……もし……










もしここが
本当に過去であるなら。



































今から
彼女は殺される。



















まさか、な











まさ……か……







違う。

ここは現実。虚実の世界ではない。

過去を見ることなどできない。
今は「あの十一月六日」ではない。






でも。





もし。








もし……




本当に今日が
「あの十一月六日」だとしたら。














































『大庭くん』


























もし……!















晴紘は
人々の波に逆らうように
駅裏に向かって駆け出した。













【弐の参】十一月六日・壱

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