きっと魔が差したのだろう。
そうに違いない。
……ここは?
紫季に連れられて
歩いていくこと数十分、
晴紘は
無数の歯車が天空に向かって
組み重ねられているような
場所に出た。
天空だけではない。
床の一部にも
ぽっかりと穴が開き、
その中へも
歯車が吸い込まれていく。
という音が、
前後左右どころか上下からも響く。
回る歯車の
重なったところから
火花が散る。
あれに挟まったら
骨ごと
真っ二つになってしまうだろう。
時計、塔?
何枚もの歯車を
重ねているものとして
思い浮かべるのは時計。
目覚まし時計を
面白半分に分解した時、
その中から現れたものに
酷似している。
自分が見知っているものは
こんなにも多くの歯車は
使ってはいなかったが。
……俺は立ち入り禁止だろ?
……
歯車の隙間に現れる道なき道を
黙々と抜けていく
小さな背中に呼びかける。
修理を命じられているくらいだから、
構造はわかっているだろう。
彼女に付いていけば
ついうっかり
歯車に挟まってしまいました、
と言うことにはならなさそうだ。
だが。
過去を見せる、と
彼女は言った。
それで
時を示す時計塔に来るなんて
あまりに出来過ぎている。
……からかっているのか?