正太郎

もうすっかり冬ですねぇ……

部屋の中にある火鉢にあたりながら、正太郎が言う。
その正面には、同じように火鉢に手をかざす百合の姿があった。

百合

そうですね……
外の世界の冬はこんなに寒くて美しいんですね

百合は優しく消えそうに微笑む。
百合と正太郎が吉原から逃げ出しておよそ2カ月が経ち、百合自身もこの家での暮らしに慣れてきたように見えた。

未だに、よそよそしい態度をとることもあるが、それはおそらく緊張や遠慮ではなく、本人の性格によるものなのだろう。
三歩さがってついていく。
そんな態度がしっくりくる女性になっていた。

正太郎

寒くないですか?

正太郎が微笑みながら百合に問いかける。
百合は照れたように顔を背けながら、大丈夫ですと答えた。

たしかに、ついさっきまでは少し背中のあたりが寒いかなと思っていた。
しかし、正太郎の微笑みを見たとたんに体が熱くなってしまったのだ。

なんともうらy……ほほえましい姿である。

二人でアツアツするなら、火鉢いらないんじゃない?

二人の姿を見つけた綾が、冷やかすように言った。
綾は正太郎の妹で、この家で同居生活を送っている。

百合と出会った当初は、出会い方の悪さもあり、妙な距離感があったが、今ではすっかり打ち解けている。

言葉にしたときの意味合いの違いはあれど、二人の間には、正太郎のことが好きだという共通項が存在しているのだから、ある意味仲良くなるのは時間の問題ともいえた。

百合

あ、綾さん///

あーあ
いいなぁ百合さん
この調子だとクリスマスもアツアツなんでしょうねぇ……

百合

くりすます?

百合はキョトンとした顔をする。
百合の顔を見て二人はさらにキョトンとした顔をしていた。

正太郎

もしかして、百合はクリスマス知らない?

百合

はい……

正太郎

そっか……

クリスマスって言うのは、もともとは西洋の行事で、詳しいことは分からないんだよねぇ

正太郎

これだから綾は……
クリスマスは、キリスト教の中でキリストの生誕を祝うお祭りなんだ。

百合

つまり……規模の大きなお誕生日会?

正太郎

まぁ、百合にとってはそのくらいでいいかもね

正太郎は笑顔で返す。
百合は少し難しそうな顔をする。

百合

でも、そのクリスマス?っていうのが、私たちとどう関係してるの?

クリスマスは家族や大切な人と一緒に過ごす日なんです

百合

家族や大切な人と一緒に……

貧しい家から閉ざされた世界という、非常に閉鎖的な空間で今まで生きてきた百合にとって、クリスマスは当然初めてのことである。
その上、大切な誰かと時を過ごすということを意識する日という体験も初めてになる。

正太郎

ということで、クリスマスの準備に行こう

正太郎は晴れやかな顔で告げた。
綾は満面の笑みを浮かべ、百合は目を丸くしたまま動かなかった。

第聖章:クリスマス……?

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