正太郎

このあたりのデパートに来れば、大体全部揃うよね

相変わらずお兄さんは変なところ適当よね

百合

よく考えたら、私は正太郎さんと買い物するのは初めてかもしれません

三人はわいわい話をしながらデパートへ向かった。
店内に入ると、クリスマスの準備をしてきたと思われる人々でにぎわっていた。

正太郎

じゃあ、必要なものを買おうか

そうね

百合

……

正太郎

百合?どうかした?

百合

い、いえ、何でもないです。

百合は慌てて首を振る。
正太郎は少し違和感を感じたが、本人が何もないという以上追求するのは野暮というものだ。

正太郎

じゃあ……

正太郎が階段に足をかけようとしたときに、綾は正太郎を呼び止めた。

二手に分かれませんか?
お兄さんは上、私と百合さんは下で。
最後にケーキを買う時だけここで待ち合わせってことで。

正太郎

う~ん……
その方が早いかな?
百合はどう思う?

百合

そ、そうですね、そうしましょう

いきなり話を振られた百合は慌てたように答えた。
百合がいいならと正太郎は上へ向かった。

正太郎

遅かったね二人とも。

ごめんなさい。
百合さんはせっかく大切な日だから、おいしいものを作りたいからって

百合

わ、私のせいですか!?

冗談ですよ

三人は談笑しながらケーキ屋を目指して歩き始めた。
荷物は半分を正太郎が持ち、残りの半分を二人が持っているような状況だった。

百合

こ、これがケーキですか……

ショーケースに並べられたケーキを眺めながら、百合は子どものように目を輝かせている。

正太郎

百合はケーキを見るのは初めてかい?

百合

そうですね
お話には聞いてましたけど……すごく美味しそう……

百合さん、私より子どもみたい

百合

そ、そんなことないですよ!

正太郎

せっかくだし、百合の一番おいしそうだと思ったケーキにしようか

正太郎が笑顔で告げる。
百合はショーケースをじっくりと眺める。
新雪のように真っ白な生クリームや、太陽のようにまぶしい苺が、百合の視線をせわしなく呼ぶ。

そんな中、一つのケーキが百合の視線に止まった。
ホールのショートケーキの真ん中に蓮をイメージしたような細工が置かれているものだった。

百合

これにします

正太郎

分かったよ。

正太郎は、店員を呼びケーキを買い百合に手渡した。
受け取った百合は照れ笑いを浮かべた。

正太郎

ただいま我が家!

お兄さん、楽しそうね

正太郎

そりゃそうさ、三人でゆっくり過ごせる上に、百合の手料理もあるんだ。
楽しくもなるさ。

ふ~ん

正太郎

どうかしたか?

まだわかってなかったのならいいわ。
変なところ感がいいからね、お兄さんは

正太郎

は?

正太郎がキョトンとしていると、炊事場にいた百合がひょっこり顔を出した。
手には、綺麗にラッピングされた小さな箱が握られていた。

百合

正太郎さん、これ、クリスマスプレゼント?というやつです。

正太郎

本当かい?
うれしいよ!
もしかして、綾と一緒に買い物していた時かい?

百合

はい、その……いろいろお礼が言いたくて……
私を助けてくれたこと、素敵な妹さんを紹介してくれたこと、楽しい生活をくれたこと……
全部……全部……感謝していて……

百合の目に涙が浮かぶほど、その言葉はとぎれとぎれになる。

正太郎

百合……

百合

だから、ありがとうございます……
これ、私からの精一杯のプレゼントです

正太郎が包みを開くと、花の飾りが入っていた。

正太郎

これは……

百合

ガーベラのカラーピン
正太郎さんが私に山茶花をくれてたから

ガーベラの花言葉は『感謝』よね?
百合さん、この日のために勉強してたんだって

正太郎は、カラーピンを握りしめ、百合をゆっくりと抱きしめた。

正太郎

こちらこそ……ありがとう……百合……

その言葉を聞くと、百合の目からさらに涙があふれだした。

百合は正太郎から離れると、涙を拭いて、正太郎を見据えた。

百合

これで終わりじゃないですよ!
まだ、料理がありますから!
楽しみにしててくださいね!

そう言って百合は炊事場にかけていった。
それを眺める正太郎の目は涙で濡れ、冬の夕日に反射しキラリと光った。

第夜章:クリスマス!

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