すると、目の前の扉が開いた。そこから出てきたのはこの店の用心棒の男だった。
その手には刀と鎧があった
なにをするつもりなの?
すると、目の前の扉が開いた。そこから出てきたのはこの店の用心棒の男だった。
その手には刀と鎧があった
なるほど……見せしめに殺そうってことね
店に反抗的だと客に何するか分からない。
ならいっそ、歯向かうとこうなるって前例にしてしまおうって魂胆なのかしら?
相変わらず思慮の浅いやつだ
店主は一言だけしか返さなかった。
そんな会話をしている間にお菊には鎧が付けられていた。
殺す相手に鎧をつけるわけはない。
お菊の頭に疑問符が浮かぶ。
すると、用心棒から刀を渡された少女がお菊の下に歩みよった。
顔をよく見ると、百合と仲の良かった向日葵だった。
向日葵は手に持っていた刀をお菊に手渡す。
なるほど、用心棒たちが渡すと私が攻撃するだろうということか……
そんなことを思いながら刀を受け取ると向日葵は駆け足でその場から離れた。
準備は出来たな
おい、連れて来い
店主が声をかけると、店の下っ端が一人の女を連れてきた。
その女を見た時にお菊の表情が変わった
椿……?
まだ百合がいた時に、別の店に売られたと言われていた椿だった。
今はもっとひどい店で働かされていると聞いていたのだが……
感動の再会だろう?
こいつは、別の店でもなかなか働かなくて困ってるんだよ……
何が言いたいの?
お前らを飼うのもタダじゃないんだ。
餌だけ食うような奴はさっさといなくなってほしいんだよ……
……
しかし、処分にも手間暇がかかる
そこでお菊。お前に椿を殺してほしいんだよ……。
……っ!
話の流れからして予想できた、最悪のシナリオ。
この今握っている刀は目の前の仲間を殺すために持たされたものだったのだ。
なんで……こんなこと……
今回来てもらった人々はこれを楽しみにしていたんだよ。
遊女が遊女を殺す
何とも背徳的で淫靡じゃないか。ということらしい。
平然とした顔で店主が言う。
お菊の右手が無意識のうちに震えだす。
もちろん人を殺した経験などあるわけがない。
あるならとっくにこいつらを殺している。
ほら、早くしろ。
来てくださっている人たちの時間も無限にあるわけじゃない。
無理よ……
必死に右手の震えを抑えようとするが、震えは速さを増すだけだった。
お菊!私はいいから……
こいつらが見たいのは、あなたが折れている姿なの!
私の知ってるお菊はそんな顔しない!
私はいつか死ぬんだから!
こんな汚い奴らに殺されるくらいなら、貴方に!お菊に殺してほしい!
お願い!!
椿が大声で叫ぶ。
分かっている……椿はそういう人間だ……
深く呼吸すると右手の震えが少し収まった気がする。
殺したいわけじゃない……
でも、こいつらに任せてしまったら、どうなるか分からない。
せめて……できるだけ、苦しまないようにしてあげよう……
そんなことを考えているあたり、お菊の思考回路はまともではなくなっていた。
自らの姿を見ると、えらくごつごつしている。
この鎧も、自殺防止のためなのかと考えると妙に納得がいった。
せめて……私が……
もう一度心に唱えた。
震えはもうほとんどない。
お菊は前を見据える。
そこには口から血を流した椿が立っていた。
え?
よく見るとその胸元には、お菊のほうに先端を向けた刀が刺さっている。
椿の心臓を綺麗に射抜いている。
呆然とするお菊が、もう一度確認のために椿の顔を見た。
正確には見ようとしたといった方がいいかもしれないが……。
……。
そこに立っている人間の顔を確認することはできなかった。
彼女の顔はそこにはもうない。
首から上がとれている。
現実を受け入れられないお菊の足元に、こつんと何かのぶつかる感触がした。
見るとそれは
まぎれもなく椿の頭だった。
椿……
嘘よ……
椿……!椿!椿!!
嘘なんでしょ!!!
椿!!!!
こんなの嘘よ!!!
嫌あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!
お菊の叫び声とともに会場からは割れんばかりの歓声が上がった。
ほら、飯だぞ
って聞こえてねぇか
それからどのくらいの時が立ったのだろう
牢獄に戻されたお菊は、ぶつぶつと何かを呟きながら無意識の意識で生かされ続けていた。
餌だけ食うやつはいらないが、餌も食わない奴には需要があるのか
世の中難しいな
そういって、食事の入った盆だけ置いて彼は出ていった。