清々しい表情のヴァイスに声をかけたのはアークだった。
食事が済んだら、すぐにギルドに行くが平気か?
はい、ではそろそろですね
ヴァイス、シュバルツ
清々しい表情のヴァイスに声をかけたのはアークだった。
……お前たちに、忠告だ。嫌なものを見るだろう。それだけは頭に入れなさい
はぁ?
シュバルツが鬱陶しそうに返事をする。
この地下に招かれた者は、何かから逃げて来た場合が多い。
奉仕活動ではお前たちが逃げた【何か】を見るだろう。そうだろ? デューク
ああ
思い出すだけで気分が悪くなる。
デュークたちの場合は、奉仕活動をする、それ以外に選択肢がありません。ですから………頑張ってくださいね
…………わかっているさ
子供扱いされた気がして睨んでやる。アークは微笑で返すと、真剣な眼差しでヴァイスたちを見る。
個人差はあるが、お前たちも自分の過去や心と向き合うことになるだろう
…………
忘れたい過去、
忘れた過去、
棄てた過去
……お前たちが見るのは何だろうな
口端を上げて笑みを浮かべる。嫌な大人の笑い方だが、
引き返すなら今だ
と伝えたいのだろう。
残るつもりなら、これからのこと【だけ】考えたいのなら…………わざわざ過去と向き合う必要はない。
わー、親切ですね
それぐらいじゃ、ヴァイスは引き下がらない。引き下がらないことぐらい、アークは承知の上。だから、彼は嘲笑したのかもしれない。
“お前の行為は愚かだ”
そう、最初から釘を刺しておく。
知っておいた方が良いと思ったから話した。どう判断するかは、それぞれの自由です。
では、気を付けて
全てが思う通りに行くとは限りませんからね、ヴァイス。人の心は移ろい易いのだから
…………
え?
メルはオレを見て、目を大きく見開いた。だけど、側にヴァイスたちがいることに気付くと、営業スマイルに変える。
ども、ご奉仕ギルドです
わーい、こんにちは
昨日の今日で、また来るとは思いませんでした。驚きましたよ。
そんなに、驚くことなのか?
いやいや、ずいぶん憑かれていたはずなのに
望みを叶える為だ。憑かれるから、やらない……なんてことは言わない
………そうですね。本日のご奉仕活動ですが、薔薇園の虫の駆除です
薔薇園……
シュバルツが眉間に皺を寄せる。奉仕活動の場所には意味がある気がする。きっと彼らにとって【薔薇園】という単語に意味があるのだろう。
それはオレも同じ。
何でもあるのだな
ほんと、ここが地下って事を忘れてしまいそうですね
ニッコリと嬉しそうなヴァイスを見る。
彼はシュバルツが憑かれて、外に出ることを諦める……それを期待している。それを確信している。だから嬉しそうに微笑んでいる。
虫の写真はコレになります
昨日のようにメルが写真を取り出し、全員に配る。不気味な生物がそこにいた。
うわ、キモチワルイ
ラシェルが眉根を寄せながら、それでも凝視している。
コレを、この鉈で潰すだけです
続いて、鉈も配る。ここには何でもあるようだ。
なんだ、簡単ですね
ヴァイスが拍子抜けした、というような表情を浮かべる。
そう思うのか
はい、ゴーレム対峙をするのかと思いました
ここは冒険者ギルドじゃありません。そういうのが、やりたいのなら地上に戻って冒険者ギルドにでも入ってください。むしろ、ここはそっちから逃げて来た人たちもいるのですから
嫌ですよ。冒険者ギルドなんて絶対に入りません。あんな野蛮で愚図の集まり
ヴァイスはニコニコと笑う。彼は戻るつもりなんてないのだ。
なんだか、気に入りません
え? ボク、何かしましたか?
ヘラヘラしているのが……です。ここに来ている人たちがどれだけ苦しんで………
何だか険悪な空気になっている。それをどうにかしようと、オレはメルとヴァイスの間に入った。
時間が惜しい。メル、昨日と同じでコレ以外を潰してはいけないってことか?
はい、その通りです!
ありがとうございます
………
ニッコリと微笑むメルに、オレは小さく頷く。
ヴァイスも、やることは分かったな
はい!!!
デュークさん仲裁するの……お上手ですね。さすが……
今回は仕方なくだ。時間が惜しいのはお前もだろ?
はい
ニコニコとヴァイスが頷く。
メルとヴァイスからの刺々しい空気は消えた。だけど、背後で少しだけ冷たい空気を感じて視線だけ振り返ると、何故かラシェルに睨まれた。
………