デューク

食事が済んだら、すぐにギルドに行くが平気か?

ヴァイス

はい、ではそろそろですね

アーク

ヴァイス、シュバルツ

 清々しい表情のヴァイスに声をかけたのはアークだった。

アーク

……お前たちに、忠告だ。嫌なものを見るだろう。それだけは頭に入れなさい

シュバルツ

はぁ?

 シュバルツが鬱陶しそうに返事をする。

アーク

この地下に招かれた者は、何かから逃げて来た場合が多い。

アーク

奉仕活動ではお前たちが逃げた【何か】を見るだろう。そうだろ? デューク

デューク

ああ

 思い出すだけで気分が悪くなる。

アーク

デュークたちの場合は、奉仕活動をする、それ以外に選択肢がありません。ですから………頑張ってくださいね

デューク

…………わかっているさ

 子供扱いされた気がして睨んでやる。アークは微笑で返すと、真剣な眼差しでヴァイスたちを見る。

アーク

個人差はあるが、お前たちも自分の過去や心と向き合うことになるだろう

シュバルツ

…………

アーク

忘れたい過去、
忘れた過去、
棄てた過去
……お前たちが見るのは何だろうな

 口端を上げて笑みを浮かべる。嫌な大人の笑い方だが、

引き返すなら今だ

 と伝えたいのだろう。
 残るつもりなら、これからのこと【だけ】考えたいのなら…………わざわざ過去と向き合う必要はない。

ヴァイス

わー、親切ですね

 それぐらいじゃ、ヴァイスは引き下がらない。引き下がらないことぐらい、アークは承知の上。だから、彼は嘲笑したのかもしれない。

“お前の行為は愚かだ”

 そう、最初から釘を刺しておく。

アーク

知っておいた方が良いと思ったから話した。どう判断するかは、それぞれの自由です。
では、気を付けて

アーク

全てが思う通りに行くとは限りませんからね、ヴァイス。人の心は移ろい易いのだから

ヴァイス

…………

メル

え?

 メルはオレを見て、目を大きく見開いた。だけど、側にヴァイスたちがいることに気付くと、営業スマイルに変える。

メル

ども、ご奉仕ギルドです

ラシェル

わーい、こんにちは

メル

昨日の今日で、また来るとは思いませんでした。驚きましたよ。

デューク

そんなに、驚くことなのか?

メル

いやいや、ずいぶん憑かれていたはずなのに

デューク

望みを叶える為だ。憑かれるから、やらない……なんてことは言わない

メル

………そうですね。本日のご奉仕活動ですが、薔薇園の虫の駆除です

シュバルツ

薔薇園……

 シュバルツが眉間に皺を寄せる。奉仕活動の場所には意味がある気がする。きっと彼らにとって【薔薇園】という単語に意味があるのだろう。
 それはオレも同じ。

何でもあるのだな

ヴァイス

ほんと、ここが地下って事を忘れてしまいそうですね

 ニッコリと嬉しそうなヴァイスを見る。

 彼はシュバルツが憑かれて、外に出ることを諦める……それを期待している。それを確信している。だから嬉しそうに微笑んでいる。

メル

虫の写真はコレになります


 昨日のようにメルが写真を取り出し、全員に配る。不気味な生物がそこにいた。

ラシェル

うわ、キモチワルイ

 ラシェルが眉根を寄せながら、それでも凝視している。

メル

コレを、この鉈で潰すだけです

 続いて、鉈も配る。ここには何でもあるようだ。

ヴァイス

なんだ、簡単ですね

 ヴァイスが拍子抜けした、というような表情を浮かべる。

デューク

そう思うのか

ヴァイス

はい、ゴーレム対峙をするのかと思いました

メル

ここは冒険者ギルドじゃありません。そういうのが、やりたいのなら地上に戻って冒険者ギルドにでも入ってください。むしろ、ここはそっちから逃げて来た人たちもいるのですから

ヴァイス

嫌ですよ。冒険者ギルドなんて絶対に入りません。あんな野蛮で愚図の集まり

 ヴァイスはニコニコと笑う。彼は戻るつもりなんてないのだ。

メル

なんだか、気に入りません

ヴァイス

え? ボク、何かしましたか? 

メル

ヘラヘラしているのが……です。ここに来ている人たちがどれだけ苦しんで………

 何だか険悪な空気になっている。それをどうにかしようと、オレはメルとヴァイスの間に入った。

デューク

時間が惜しい。メル、昨日と同じでコレ以外を潰してはいけないってことか?

メル

はい、その通りです!

メル

ありがとうございます

デューク

………

 ニッコリと微笑むメルに、オレは小さく頷く。

デューク

ヴァイスも、やることは分かったな

ヴァイス

はい!!!
デュークさん仲裁するの……お上手ですね。さすが……

デューク

今回は仕方なくだ。時間が惜しいのはお前もだろ?

ヴァイス

はい

 ニコニコとヴァイスが頷く。
メルとヴァイスからの刺々しい空気は消えた。だけど、背後で少しだけ冷たい空気を感じて視線だけ振り返ると、何故かラシェルに睨まれた。

ラシェル

………

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