シュバルツ

おい、こらヴァイス!


 シュバルツの声に無表情で振り返ったのは白猫だった。

遅いよ、シュバルツ。それと、名前呼ばないでよ

シュバルツ

は? 他に呼び方ないし、面倒なんだよ。それと待ち合わせ場所が間違っているぞ。鳩時計の下だぁ? 古時計って言ったのはお前だろ

………………………間違っていないよ


 白猫は、呆れたように呟く。

シュバルツ

はぁ?

【古い鳩時計の下】ってボクは言ったはずだけど?

シュバルツ

………


 少しずつ、シュバルツから表情が消えるのを横目で確認していた。

シュバルツ

……………

シュバルツ

そんな昔の話は忘れたさ

どの古時計の下だと思ったの?

シュバルツ

古時計と言ったら、大きいのだろ

やれやれ……


 白猫はため息を吐いてから、こちらを振り返る。

………デュークさん、お騒がせ致しました

デューク

気にしていない

そちらも合流できたみたいですね。良かったです

デューク

ああ………何というか…………大変だな、お前も

はい、大変です


 オレと白猫は同時にため息を零す。シュバルツは不機嫌そうな表情を浮かべて、ラシェルはきょとんとした顔をこちらに向ける。
 そして、目を瞬かせて白猫を見ると、

ラシェル

初めまして、ラシェルです


 ペコリと頭を下げた。

ヴァイス

元気そうな子ですね。ボクは白猫………ヴァイスです

シュバルツ

お前、名乗って良いのか?

ヴァイス

シュバルツが名前を呼んでしまったからね。隠しようがないし

シュバルツ

そうだな、隠せないよな

ヴァイス

それで、どうしてシュバルツはデュークさんたちを連れて来たんだい?


 どこか苛々しているようにシュバルツを見やる。どうやら、彼はオレたちが一緒なのが気に入らないようだ。オレだって、この二人のことも、アークことも完全には信用していない。

シュバルツ

アークのところに行こうと思ってさ。コイツらも休む場所を探しているって言うからさ

ヴァイス

そうだったのですか

シュバルツ

目的は一緒だ。大勢で行けばあのオッサンも折れるだろ

ヴァイス

そりゃそうでしょうが……大丈夫ですかね


 何だか空気がおかしい……

ラシェル

アークさんのところに行けば休めるんだよね?


 ラシェルも心配になったのか、再度シュバルツに確認する。

シュバルツ

あ、ああ……そ、そのはずだ?


 頼りない返事が返って来たので、オレも重ねて確認する。

デューク

本当に休めるのか?

シュバルツ

ととととと当然じゃないかー、来る人を拒まないからなー

デューク

なぜ、棒読みなんだ


 不安が大きくなった。そんなオレたちのやり取りを黙って見ていたヴァイスが、冷たい視線をシュバルツに向けた。

ヴァイス

もしかして、シュバルツ。お二人に何も言ってないね

デューク

ヴァイス

やれやれ


 そう言うとヴァイスはオレの前にちょこんと座る。

ヴァイス

ボクたちも休む場所を求めてアークさんのところに向かうつもりでした。ここで、安全な場所ってあそこぐらいですからね。

デューク

ああ

ヴァイス

あの人はお人好しのオジサンですが、いつでも頼みを聞いてくれるわけじゃありません

デューク

だろうな


 そういうことだったのか。
 ラシェルはまだ首を傾げている。

ヴァイス

あの人も気まぐれですからいつでも休ませてくれるとは限らないのです。ボクたちは警戒されているみたいで……あんまりしつこいと追い払われます。というか、門前払いはほぼ確実。ですが……

デューク

……四匹で行けば断ろうにも断れないだろうな。オレとラシェルは新参者。世話好きだという、あの男がラシェルを無下に追い払うとは思えない。お前たちだけ門前払いで、オレたちだけ大丈夫なんて、ことはしないだろう


 ラシェルが目を瞬かせる。

ラシェル

私がどうかしたの?

デューク

いや、お前は役に立つってことだ

ラシェル

そうなの?


 嬉しそうに微笑むラシェルにヴァイスも温厚そうな笑みを向けた。

ヴァイス

そういうことです。一緒に交渉しましょう!

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