今は【人外時間】
 仔猫と狼が二匹連れ立って歩く姿は目立ってしまう。

 会話はない。オレが憑かれているからだろうか、余計な気を使わなくても良いのに。その気遣いがありがたい………なんて、思っていたらラシェルが突然走り出した。
 おい、と引き留める間もなかった。

ラシェル

黒猫さんだー


 ラシェルは黒猫の前で足を止める。どうやら、目的は黒猫だったらしい。

お前は……

ラシェル

ラシェルだよ

探していた奴と合流できたんだな。良かったな


 黒猫の視線はオレに向けられる。

ラシェル

うん。黒猫さんは?

残念ながら会えていないよ。待ち合わせ場所を決めているのに何でアイツ……

デューク

お前が、黒猫か


 黒猫を探している白猫がいた。黒猫は誰かを探している。黒猫は一瞬だけ警戒してから、オレを見上げた。一致しているかは分からない。

そうだけど


 お前は誰だ?
 と、言うように激しい警戒心をこちらに向けて来る。

デューク

ラシェルの保護者だ

ラシェル

えっと、私ね。地下に降りたら一人ぼっちになっていたんだ。そして、どうしようかな~って迷っていたら、黒猫さんに会ったの。そして、アークさんの所を教えて貰ったんだ

広場で迷っていたからアークのところを教えた

デューク

……そうだったのか。世話になったな

いや、困っている奴は放っておけないからさ


 そう言って笑う黒猫に悪意は感じられない。警戒心も消えていた。

デューク

お前が黒猫なら白猫から伝言を預かっている

何だって?

 黒猫は目を見開いて驚く。

 あの白猫が探していたのは、この黒猫で間違いないだろう。どうやら、彼らもお互いにお互いを探していたようだ。待ち合わせ場所を決めているのに、歩き回っているのでは意味がないようにも思えるが、そこは言わない方が良いだろう。

デューク

ああ……伝言だ、鳩時計の下で待っているってさ

………マジかよ……待ち合わせ場所は古時計の下って言ったのに。あのバカが

デューク

いや、オレたちに怒鳴られても

……ああ、そうだな。ありがとう、えっと……

デューク

デュークだ


 オレが名乗ると黒猫は目を細めて驚く。白猫と同じ反応。

……名前を名乗って良いのかよ

デューク

白猫と同じことを言うんだな

だって、むやみに自分のことを話さない方が良いんだろ

デューク

お前はラシェルの敵ではない。それだけで十分、信頼できる


 オレがそう答えると、黒猫はしばらく考えて大きく頷いた。

シュバルツ

……だったら、おれも名乗らないとな。おれはシュバルツだ

デューク

良いのか?

シュバルツ

ああ、じゃなきゃ不公平だろ。それに、探り合うのって得意じゃないんだよ


 それはオレも同じだった。
 探り合いは得意ではない。

ラシェル

ねぇ、シュバルツ聞いてもいいかな?

シュバルツ

おう


 ラシェルに声をかけられ、シュバルツが振り返る。

ラシェル

休める場所ってないかな? デュークが疲れているの。デュークには休んで欲しいの

シュバルツ

心当たりは………あるよ

ラシェル

本当に?

シュバルツ

アークのところだよ


 予想していた場所だった。この場所は何所も彼処も怪しい。安心して休める場所となると、そこしかないだろう。

ラシェル

そっか、アークさんのこと、忘れていたよぉ

シュバルツ

おれも白猫と合流したら行くつもりだから、一緒に行こうぜ

ラシェル

うん……って、デュークはそれでいい?


 上目遣いにそう尋ねる。

デューク

お前が良いと思うのなら従うよ。ラシェルがあまり言うからか、本当に疲れて来たし

ラシェル

あわわ、大変だ

 歩き疲れたというのもあるが、喋り疲れたのもある。あの劇場支配人と会ってからは、もう必要最低限は喋らないつもりだったのに………



 早く外に出て、誰にも会わずに引き篭もりたい……


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