食べ物にあたるようなことですか?


紫季は屈みこむと
破片を拾い集めて盆に載せた。

まだ湯気の立っている
飯や肉も素手で掴んでいく。









卵も豚肉も
未だ高級食材だ。


灯里の稼ぎがあるからこそ
この家では普通に出て来るが、
晴紘がひとり暮らしをしていたのなら
月に一度口に入るかどうか。

……

それを無駄にしてしまったことへの
罪悪感が、
ちりりと胸を刺す。


















いいよ、もう



晴紘は紫季と同じように屈みこむと
べたべたになったままの手を取った。

ハンカチ、とポケットを探り
しわくちゃになった布切れを取り出すと
彼女の手を拭う。



















































……やられちゃったんだよ。木下さん

絞るような独白に、

……

紫季は黙ったまま
晴紘を見上げた。




















































灯里の呟きに希望の光を見て
この数日
被害者を洗い直していた。




もちろん
木下女史も一緒だ。

気性は激しいが
被害者が同世代の女性だと
いうこともあって
気負うところもあるのだろう。

別につき合わなくたっていいのに

なに言ってんの! 大庭くんひとりじゃ10年経ったって終わらないわよ!?

でも無駄手間で終わるかも

あのね。捜査なんてどれも無駄手間の中から真実を見つけ出すものでしょ!?

いいのよ、あたしがやりたいだけなんだから

木下さん、灯里が言ったことだから信じたんでしょ?

そうね。大庭くんの発想なら殴って終わってたかもね











犯人が見つかってもいないこと、
夜遅いということ、

そして彼女も
被害者になりうる可能性がある、
ということもあって

見てろー!
必ず捕まえてやるんだから!!

ああ、任せた

ふふん、そんなこと言ってると本当にお手柄取っちゃうわよ?

このところずっと
木下女史を駅まで送るのも
日課になっていた。

大庭くんは今日も泊まり?
なんか可愛い子が着替え持って来てたわね

暗に帰って来るなって言ってるんだよ

とか言っちゃって

都内とは言え、
森園邸は片道でも結構な時間がかかる。
今はその時間も惜しい。


だが、
木下女史にも同じように
泊まれと言うわけにはいかない。






























駅で別れた彼女の姿は
未だ鮮明に憶えている。

また明日!

と、振り返り際に片手を上げて

終電へと急ぐ人々の波の向こうに
消えて行った。

















「また明日」









日付変わっちゃってるんだから「また今日」の間違いだろ?

と、心の中で突っ込んで。













そして。













































「また明日」だか「また今日」だか
わからない数時間の後。







彼女が
戻って来ることはなかった。





































駅裏の
解体作業をするために囲っている
トタン板の塀の向こう側で
発見されたのだ。

膝から下が無かった。

学生の時分は陸上をしていたと
自慢していた足が。







涙と泥にまみれ、
恐怖に引きつった顔をしていた。












pagetop