サラ

ついに来たのね……

ジェード

そうだね

二人は前線基地へと移動する最中だった。
常に銃弾の雨が降り注いでいるわけではない。とはいえ、地面にあいた穴の数々が戦闘の激しさを物語っているようだった。

ここが前線本部だ。
もうすぐ隊長が来るから挨拶をしっかりするようにな。

そう言って彼は持ち場に戻っていった。
周囲を見渡すと、どの兵士兵士たちも皆せわしなく動き回っている。
人手が足りないとは聞いていたが、現場に入るとそれが身に染みて実感できた。

君たちが今日から前線に加わる者たちか?

突如として飛び込んできた声に二人は驚いて声のほうを向く。
そこには目つきの鋭い一人の男性が立っていた。
年は30前後といったところだろうか。修羅場を潜り抜けてきた自信に裏付けられた威圧感をまとっていた。

ジェード

本日より、こちらの前線基地に配属されました。ジェード・フェリシオ二等兵です!

サラ

同じく、サラ・エリア二等兵です!

二人は敬礼をした状態で名乗った。
男は二人を交互に見ると口を開いた

カーティス

クリム・カーティスだ。
ここの指揮を執っている。
なかなかに有能な人材だとベルから聞いている。期待しているよ。

カーティスと名乗った男は、それだけを言い残すと、部下に何かを耳打ちした後に、テントから足早に去っていった。

トーマス

俺はトーマス。まずはこの基地について教えていく。時間がないから足早に行くぞ
しっかりついてこい

トーマスと名乗った兵士が、二人に言った。歳は自分たちより3つか4つほど上であるように見える。彼もまたこの前線基地では下の方なのであろう。
ジェードとサラは兵士について基地内を見て回った。

トーマス

駆け足だったが、これで全部だ。
明日から早速実践だろう
大変かもしれないけど、今はしっかり休むように。

ジェード

はい!

サラ

はい!

二人は大きく返事をした。
引率の兵士は納得したように一つ頷いた。

その場で解散し、自分の割り当てられたテントに戻ろうとしたとき、トーマスはジェードを引き留めた

トーマス

ちょっといいかい?

ジェード

はい

トーマス

カーティス隊長のことなんだけどさ

ジェード

割り当てられた部屋に入ろうとしたジェードたちを彼は突然引き留めた。

トーマス

カーティス隊長って、冷たい人に見られがちだけど、そうでもないと思うんだ。
昔、同じ隊に所属してた人が目の前で死んだことがあったらしいし

月夜に照らされたうっすらと冷たい空気が、二人の頬をフワリとなでた。

トーマス

あの人は、ただ冷たいだけじゃないんだよ。
ちゃんとできる奴の面倒は見る人だからさ。
怖がらずについていってほしいんだ。

ジェード

分かりました。
ありがとうございます

トーマス

今度こそ解散だ。
引き留めて悪かったな

そう言ってトーマスはひらひらと手を振りながらテントへ戻っていった。
ジェードはその姿がテントに消えるまで眺めていた

トーマスがテントに入ったのを見届けると、ジェード自身も夜風から逃げるようにテントへ戻った。

ジェード

いよいよ実践……
大丈夫。僕はできる……

木々を揺らす風の音に反射し、ジェードの声は天高くに上っていった。

第3章:始まりの地、繋がる糸は

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