小さくため息をついてアリアは言った。
二人は、自分たちを呼びに来た時の表情や仕草からある程度察しはついていたのだが、いざ事実を前にすると、なかなか受け止めにくいものがあった。
ジェード・フェリシオ、サラ・エリア。君たちを呼び出した理由は――。
前線への招集命令が来たんですか?
相変わらず察しがいいな、ジェード・フェリシオ訓練兵
小さくため息をついてアリアは言った。
二人は、自分たちを呼びに来た時の表情や仕草からある程度察しはついていたのだが、いざ事実を前にすると、なかなか受け止めにくいものがあった。
前線……
あぁ……
人が足りないんだ
君たちは訓練兵で経験がないことは重々承知している……
だが――
大丈夫ですよ
必ず帰ってきます
私もです。
正直、不安ですけど……
精一杯、国のために――
国のためじゃない……
自分たちのためだ
アリアは真剣なまなざしを向ける。
サラとジェードはその射抜くような視線に思わず凍り付いた。
ベル教官……
あぁ……すまない。
怖がらせるつもりじゃなかったんだ。
ただ、国のためという思想はときにその身を滅ぼしかねない……
それを君たちには覚えておいてほしいんだ。
ジェードとサラは思わずその場で黙り込む
すっかり沈んでしまった二人の顔を見るとアリアは頭を抱えた。
ちょっと脅しが過ぎてしまったかな
これも老婆心というやつなのかもしれないな。
私も年をとったということなのかもしれない……
そんなことないですよ
サラが慌てたように否定する。その姿を見てジェードが思わずクスリと吹きだす。
二人の顔に柔らかさが戻ると、アリアも柔らかな表情になり、手を叩いた。
さぁ、そろそろ時間だな。
君たちのような新米を前線に出すのは、やはり忍びないとおもう。
しかし、君たちは優秀だから呼ばれたのだと思っている。
胸を張って向かっていってほしい。
強がってはいるが、やはりアリアの顔には若干の迷いが見受けられる。
ジェードはそれを感じ取ったのか、姿勢を正し敬礼をしながら胸を張って答えた。
行ってきます。
まだ、私たちは、貴方から教わっていないことが沢山ありますか。
それを教わりに必ず帰ってきます。
相変わらず、君のその観察眼は見上げたものだな。
それをもっと別の場所で発揮できればいいんだがな
ん?
何でもない
サラ・エリア。君も気をつけて
はい
アリアはサラの元に近づき耳打ちした。
帰ってきたら、彼との仲が進展したか教えてくれ
へっ!?
何を驚いているんだ?
いや、まさか、教官からそのようなことを言われると思っていなかったので
私だって教官の前に、人間であり、女だ。
その手の話は気になるさ。
顔を赤くしながら俯くサラに、アリアは楽しそうに語りかける。
さぁ、行ってこい
自らの未来のために
はい!
はい!
サラとジェードは大きな声で返事をした。
扉を開いて出ていった彼らを、アリアは扉が閉まるまで見つめていた。
無事に帰って来いよ……
アリアはそう言って、首から下げていた懐中時計を開いた。そこにはアリアと、親しげに写る男性の姿があった。
ルイ……彼は……君のようにならないよな……?
アリアの呟きは、懐中時計を閉じる音にかき消されるほどに弱々しいものだった。