月曜日、登校中前後左右上下に気を配っていると牧が後ろから声をかけてきた。

おはよー

絢香

おはよー

今日は1人で登校?

絢香

うん

なぜまたそんな危険を

絢香

……いっそ、登校中に怪我でもして刑事事件にしてやろうかと思って

うわー

絢香

そんな馬鹿が今日いなかったのが残念

いや、いなくてホッとしてよ、そこは

正門に差し掛かると、一気に生徒数が増える。
 
それに比例するように、悪意ある視線が膨らむ。
 
正直足は竦むし、怖いけれど、不登校なんてそんな思う壷なことしなくない。
 
靴箱に来ると、あたしの靴箱の前に人影があった。

和博

あ、絢香おはよー

絢香

おはよー、和博。
何やってんの?

和博

靴箱の清掃

絢香

あら、ありがとう

本日もたくさんのゴミが入っていた形跡が残る靴箱に、鞄から出した消臭剤を振りかける。
 

ここ数日で学んだ。
 
ゴミを取り除くだけだと悪臭がする。
 
別にあたしはもうここを使わないから関係ないのだけど、あたしの靴箱がくさいって噂を立てられるのは女子としてへこむ。

 

よって、消臭剤(無臭)を学校に持ってくることにしてる。

和博

絢香、そんなん持ってんだ

絢香

まあね

絢香

で?

和博

ん?

絢香

和博はなんか用?

和博

ああ、絢香に教えてやろうと思ってさ

絢香

なに?

ちょっと

和博が口を開こうとすると、牧が割って入ってきた。
 
どうしたのだろう。

牧って、こんな感じで人の話に割ってくる子ではない。

和博

島崎さん絶対言ってないと思うから言うけど

それは、あなたが言うことじゃないでしょ

和博

絢香には知る義務があるだろ

あなたの勝手な理屈にあたしを付き合わせないで

絢香

ちょっと、待って、何喧嘩してんの?
2人ともそんな仲良かった?

強い口調で言いあう二人の仲裁をすれば、周りにあった好奇の視線も一層降り注がれる。
 
いじめられっ子グループの仲たがいとでも思って居るのだろうか。
 
感じの悪い同級生たちだこと。

絢香

牧が私になんか隠してるの?

……

絢香

え?ほんと?

牧が俯いた。
 
困ったように和博に視線を移すと、彼は口を開く。
 
ごく自然な会話であるように。

和博

島崎さん、いやがらせされてる。
金曜も、俺が助けなきゃずっと屋上だった

絢香

ほんとなの?!

ほんと、だけど、絢香ちゃんに比べれば、なんてことないよ

強がる牧を見て、胸が痛くなった。

牧は序列上位じゃない。

こんな争い、本当は無関係だったん。
 
あたしが、この子を巻き込んだ。
 
受けなくていい傷を受けさせてしまった。

絢香ちゃん、そんな顔しないで

絢香

でも

いいたくなかったのは絢香ちゃんが、あたしから離れちゃうと思ったから

役員じゃないあたしが好きだって言ってくれる友達を、一人にしたくないの

牧はいいながら抱きしめてくれた。

牧は上位じゃない。

こんな争いただ巻き込まれただけなのに、一緒にいてくれる。
 
すごく、すごくうれしいけど、でも、巻き込みたくはなかった。

絢香

……ありがとう牧。
でも、本当につらくなったら、いつでも何にも言わないで離れていいからね

牧だけに聞こえるようにひっそりとつぶやくと、牧は勢いよく体を離してあたしの顔を見た。
 
彼女は、傷ついた顔をしていた。

27時間目:見えないところで(1)

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