あたし達3人は気まずい空気の中、教室へ向かった。

クラスの違う和博が分かれて、牧はぽつりといった。

それでも、あたしはそばにいたいんだもん

絢香

……ありがとう

教室に入るといつかのように机に落書きがされていた。

三宮くん

あ、松崎さんおはよう

牧の机を掃除していた三宮君があたし達に気づいて挨拶してくれた。

絢香

おはよう

三宮くん

ごめん、島崎さんの机しかまだ終わってなくて

絢香

やっぱり、2人分キレイにしてくれてたんだ

三宮くん

校内清掃の一環だよ

三宮くんは笑って言うけど、全くもう、みんな言ってくれればいいのに。
 
注目の集め方も、悪意の集め方も心得てるよ、あたしは。

絢香

ちょっと、今ここにいる人たちに聞いてほしいんだけど

大きな声で教室中に響き渡るように話す。

絢香

牧をいじめてるやつがいるらしいけどさ、序列役員相手によくやるわねぇ。
命知らずなのかしら?
それに、あなたたちこの程度で私が学校来なくなるとでも思ってんの?
ぬるいのよ。
牧をいじめる暇があるなら私をへこませてみれば?

舌打ちが聞こえてくるけど、知ったことではない。
 
関係ない誰かを巻き込むの、絶対ダメ。
 
三宮君と一緒に机を拭いていると、机に影が差す。

絢香

悠美と話すことは何もないよ

悠美

……違うよぉ

絢香

何が?

机を拭く手を止め顔を上げると、泣きそうな悠美がいた。

悠美

絢香ちゃん、なんでそんなひどいことみんなにいうのぉ?

絢香

私はひどいことされてるんだけど

悠美

それは絢香ちゃんが悪いことしからかでしょぉ?

絢香

身に覚えがない上に証拠不成立よ。
全部

悠美

……悠美が、止められないのがいけないんだよねぇ?

絢香

はぁ?

悠美

悠美がぁ、みんなを止められればいいんだけどぉ

絢香

あんたがけしかけてるんでしょ?

悠美

ちがっ、……悠美はそんなこと、しないよぉ

黒田くん

悠美がそんなことするわけねーだろ!

悠美と話していると、横から突き飛ばされた。
 
机を巻き込むようにして倒れる。
 
顔を上げれば、副委員長こと黒田君がいた。

絢香

……傷害容疑かなんかで訴えるわよ

黒田くん

お、俺は、怖くねーし?
ゆ、悠美のためだし?

とかなんとかいいながら、悠美の後ろに隠れていった。

何だったんだ、あいつ。
 
悠美も変な顔してる。想定外だったのか。
 
場の空気が一気に白けた。

悠美

悠美ぃ、絢香ちゃんに嫌われたくないよぉ

絢香

だから、き……

田島くん

おはよう、松崎さん、南波さん

あたしの言葉をかき消すように田島君が入ってきた。

教室のこの状況に動じていないのは、途中から成り行きでも見ていたからなのか。
 
教室の中をすたすたと歩いてきた田島君はあたしの前で立ち止まる。

不思議そうに見上げていると、けだるそうに口を開いた。

田島くん

松崎さん、俺の机返して

……え?これ、田島君の机?
  
いや、違うよね、席順違うよね。ここ全然場所違うよね。

後ろに巻き込んでる机に視線を移して、再び田島くんを見上げる。

田島くん

……松崎さんが押してる一番奥の机、昨日俺が倉庫から持ってきたやつ。
机が合わなくて

絢香

あ、ご、ごめんなさい

慌てて立ち上がって、机をもとに戻していると手伝ってくれる。

田島くんはあたしに一瞬だけ近づいてぼそりと囁く。
 

田島くん

前にも言ったけど、言動に気を付けて

小さく言われた言葉に視線を送ると、ため息に紛れ込ませて彼は言った。

田島くん

嫌いが言葉になりそうだったよ

息を飲んだ。あぶない。

否定でも嫌いは言っちゃいけない。

誰が録音してるか分かったもんじゃない。

 


落ち着こう。感情に流されてはいけない。 
 
まだ15歳とはいえ、あたしはもう中学生ではないのだ。
 

気を付けよう。
 

目くばせすると、田島君は机を交換する。

そして何か考える仕草をして、持っていた自分の机をあたしの前に運んで来た。

そして自分の机をあたしに見せて一言。

田島くん

俺の机きれいだけど、いる?

絢香

……いる

悠美が目を見開いたけど、あたしも驚きだった。
 
呆然としていると、三宮君が気を利かせたように汚い机を教室の外に持っていった。
 
空いた場所に田島君が机を持って来る。

田島くん

俺、優しい奴が好きだから

 この数日中立を保っていた田島君が味方になった瞬間だった。

27時間目:見えないところでを(2)

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