絢香ちゃん、今日会議あるから

絢香

わかってるって。
あとは帰るだけだし、心配しないで

でも、絢香ちゃん昨日帰りがけに突き飛ばされそうになってたし

絢香

……今日は背後にも気を付けるわ!

ほんと、ごめんね
男子が一緒に帰れたらいいんだけど

絢香

まあ、部活も勉強も私が邪魔していいものじゃないしね

絢香ちゃんさえ、一緒に帰ろうっていえばみんな一緒に帰るのに

絢香

いやよ。
私、別に守ってもらいたいわけじゃないもの。
やれるだけ一人でやりたいの

変なとこで意地っ張りなんだからー。
あ、そろそろ行かなきゃ

絢香

うん。
会議頑張ってねー

気が重ーい

あたしと牧は金曜の放課後は別行動をする。
牧が序列役員の会議があるからだ。
あたしは牧と別れた後、さっさと学校を出た。
残っていると嫌なことしかないから。

放課後、あたしは役員会議に出ていた。

空き教室のなかには役員が6人いた。

各クラス1人づつ選出されているからだ。



役員会議は通常、学年で週に1回、月に1回全学年で放課後に行われる。



序列選定のタイミングだと、お昼休みに呼び出されたりするけれど、序列役員は別に正式な委員会とかではないので、そうそう集まれない。



そこで行われるのは基本は情報交換だ。

今日も情報交換だと思いきや、本当に会議みたいなことが始まった。

あたしがこの学校で役員になって初めての出来事だった。

侑斗

で、今日はちょっと真面目にやりたいんだけど

役員のまとめ役の松本侑斗が話しだす。

視線は当たり前のように私に注がれた。

侑斗

序列選定不正の件だ

ちょっと、それは絢香ちゃんのおかげで不問になってるでしょ

侑斗

お前の不正だけな

ほかにも何か?

侑斗

張り出されたやつ、アレな、発表前にすり替えられてたんだ。
本来、みんなが集めてくれたものとは違う

ちょっと、それがあたしだっていいたいの?

侑斗

お前じゃねーよ

はぁ?

侑斗

松崎の順位は初めから2位だ

侑斗

変わっていた順位は南波悠美だ

……

静まり返る教室。



あたしも不審には思っていたけれど、序列の不正はご法度だ。

不正が公認させるのは高校2年生からだと聞いている。

それ以前に不正を行うことは来年度に響くから普通の神経じゃやらない。でも、それをやった人間がいる。



悠美の側に。



教室にいる人間、合計6人の視線が交錯する。

緊張した空間の中、ため息をはくように声を出した男子がいた。
 

神崎

面白いこと言うね

侑斗

どういうことだ?

神崎

まとめ役ともあろうものが、何も調べてないとは思えないんだけど

何がいいたいの?
神崎

神崎

俺が疑われてんだろ?

焦りもしないで口を開くのは神崎。

現在情報収集能力トップの私と侑斗と同じくらいの実力を持ち、公平性がないとの理由でまとめ役になれなかった男。

確かに、侑斗を出し抜けるとしたら、こいつか私だけだ。

侑斗

南波派だよな、お前

神崎

まぁ、松崎か悠美だったら、悠美の方が魅力的だね

侑斗

悪いな。
悠美に不正疑惑がかかったらまず真っ先にお前を疑うつもりだったんだ

神崎

ふーん。
証拠でもつかんだのか?

侑斗

いやまだ

ちょっと、待ってよ。
侑斗

二人だけで置いてけぼりの4人を代表してあたしは口を開く。

神崎と悠美の不正って、私が気づかないはずない。

あたしの仕掛けたカメラにそんな不審な行動取ってる神埼はいなかったわよ

ついでに残りの3人のカメラもジャックしてたけど、そんなの写ってなかったし

侑斗

俺らのは調べてないの?

さすがのあたしもそんな数日であんたらのカメラまで手は回らないって

侑斗

じゃあ、先にいっておくけど、俺のカメラ何台か壊されてて、神崎のカメラになってたんだわ

そんなの日常茶飯事じゃない。
それだけで神崎のせいだなんて、あんたもおかしくなったの?

侑斗

いや、それだけじゃないんだけど、それを教えてやれるほどここにいる全員が情報を持ってるとは思えないんだが

そ、れはそうだけど

神崎

まあ、落ち着きなよ、島崎

あんたが疑われてんのよ!

神崎

はは!存分に疑いなよ。
絶対に証拠なんて出てこないけどさ

あんたまさかほんとに不正に手を貸したの?

神崎

さあ、どうだろうね

侑斗

まあ、お前が簡単に口を割るなんて思ってないから安心しろよ。
ただ、俺は、不正は許したくないんでな。
ゆさぶりかけてるだけだ

……先に公言しとくけど、あたしと絢香ちゃんは友達なの。
もし、松崎絢香を傷つけるなら、あたしは容赦しない

 
誰に向けるでもなく出た声は思いのほかとがっていて、神崎と視線が絡んだ。

侑斗は空気を緩めると諸連絡を済ませて、解散を指示した。

疑われていた神崎は、気にした風でもなく役員会議が終わるとさっさと帰っていた。

だからこそあたしは、役員会議が終わり、侑斗の発言を思い返し、自分のカメラの点検に向かう。

人がいない教室から初めて、全カメラのチャックが終わるころにはすでに暗くなり始めていた。

最後は、屋上かー

小さくつぶやいて屋上へ上がる。

ふと、階段を昇っているとふと視線を感じた。

……?

振り返って確かめるが、だれもいない。

気のせいだと思って、階段に再び足をかける。

屋上に仕掛けたカメラは全部で5つ。

あたしのカメラは異常なしって、仮に神崎が不正を行ってたら、馬鹿にし過ぎでしょ

仕掛けたカメラの隣にあった神崎のカメラに向かって、威嚇する。

後でカメラチェックをした時にでも、驚けばいいんだわ。
 


少し気分が晴れたあたしは屋上から出ようと、出口へ向かう。



開けっ放しにしていたドアが閉まっていた。
嫌な予感がしつつも、ドアノブを開ける。
ガチャリ。

……神崎が犯人だったらマジで絞める

荷物が邪魔だと教室に置いてきた鞄の中に、携帯がある。
 


なぜ私は携帯を携帯しなかったのか。

これか。

悠美勢力にあって私たちにないもの。

この本気度か。
 


そう思っても後の祭り。
ぽつりぽつりと降ってきた雨に、どうしようかと上を向くだけで、なすすべもなく屋上に閉じ込められてしまった。

26時間目:崩れていく日常(1)

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