焔の行動に驚いた汐音は目を見開き、主を睨みつけた。
ほむら、さま?
焔の行動に驚いた汐音は目を見開き、主を睨みつけた。
目を閉じてって言ったのに、わるい子にはお仕置きだな
こんなこと……
焔は逃げようとする汐音の腰に手をまわして抱き寄せた。
大丈夫、エドワードしか見ていない
そういう問題じゃないだろ
エドワードが手で顔を覆いながら抗議する。焔の行動はエドワードにとっても予想外だったらしい。
焔様!
ああ、なんだい?
ひとりでお買い物、出来ましたよね。おめでとうございます!
甘い声色で答えたのに、汐音は意外な言葉を焔にかける。
って………今、それ言うの?
私、出来ないかもって思っていたのです。焔様に買い物なんて無理だって
酷くないか
普段の焔様からは想像も出来ませんので
そこまで言われるとは思わなかった。
そういえば、焔。プレゼントも買っただろう? それはどうしたんだ?
思い出したようにエドワードがそう言うまで忘れていたらしい。
そ、そうだった。これだ、これ
焔は白い袋に手を突っ込んで取り出す。
ピンクの包装、ラメ入りの赤いリボンの可愛らしいラッピングが施されたプレゼントが現れる。焔はそれを汐音に渡す。
私に?
オレ様の気持ちだ!!
主からプレゼントなんて貰えませんよ
貰うか、どうかは見てから決めてくれ
汐音は渋々リボンを丁寧にほどく。
現れたのは……
……………はじめての、おままごとセット
え?
ホムラサーン、なんて言って選んでもらったんだ
呆れ顔のエドワードが指先でツンツンと焔の肩を叩く。
女の子用のプレゼント
確かに、女の子用だったな
エドワードはニヤニヤと笑う。もう少し別の何かだと思っていた焔は頭の中が真っ白になっていた。ロマンチックの欠片もない状況である。
だけど、視線に映る汐音は満面の笑みを浮かべる。
嬉しいです
別のものを買ってくる、それは返してくれ
これで十分です。焔様の気持ちは受け取りましたから
それは、同情ではなく、本当に心からの笑顔だった。
焔に奪われまいと、大事に抱きしめる。
え?
ありがとう……………焔
そう言って視線を向けて、焔を昔のように呼ぶ。
汐音? それ不意打ちだろ
突然のことに、焔の表情が固まった。
幼い頃は、まだ“賢者様”でも“焔様”でもなかった。彼女は焔のことを呼び捨てで呼んでいた。
焔様が一人で買い物に成功した。きっと、これはノエルの奇跡ね
そうだな
奇跡が起きなきゃ買い物に成功できないって、酷くないか?
外を見てごらん。この美しい光景が焔に奇跡を与えてくれた
私にも奇跡を与えてくれた。
………
じゃあ、汐音はどんな奇跡を与えて欲しい?
………
焔様
今だけ………幼馴染に戻っても良いでしょうか?
ジッと見つめる眼差し。視線を反らすなんて、絶対に出来なかった。
それは、ずっとお互いに抱いていた願いだった。奇跡でも起きなければ叶うはずのない願い。
当然だろ……オレ様はいつでも汐音のことを幼馴染として扱っていたぞ
いつもはダメ。今夜だけだよ。明日になれば私は貴方の従者で、貴方は私の仕える賢者様
汐音は真面目すぎる。そこがたまらなく愛おしい
真面目すぎるから誰よりも信頼している。誰よりも大事だから、手放したくない。焔はいつもそう思って側に置いていた。
焔のそういう言葉は信用できないんだよね。嘘でも嬉しいよ
嘘か真実かの判断は汐音に任せる。オレはずっと大好きだからさ。お前に護られるより護りたいんだよ
昔からだけど、バカな人ね
護られる賢者が、従者を護るなんて。従者として否定されているみたいで、ちょっと口先を尖らせる。
バカで良いさ。それで、お前が居てくれるならバカになってやる
さっきのキスは……賢者様からのプレゼントだ、オレからのプレゼントはコレだ
あ……
焔は汐音を抱き寄せて首筋にキスを落とした。
また………私の前でやるのか……
エドワードは肩をすくめて二人を眺めていた。