夢の中で焔は一人の少女だった。
暗い闇の中、
一人で怖くはないのだろうか。
焔だったら“怖い”と感じる闇の中。
少女の中に恐怖はなかった。
だから、今の焔も怖くはない。
少女は、ひたすら走って誰かを探していた。
誰かの影を見つけて、手を伸ばす。
大きな男の人間の影。
その影も同じように手を伸ばす。
夢の中の焔は、その少女だった。
だから少女のように、嬉しいと思った。
いつもの焔ならば、男と抱き合って“嬉しい”なんて思わない。
夢の中で焔は一人の少女だった。
暗い闇の中、
一人で怖くはないのだろうか。
焔だったら“怖い”と感じる闇の中。
少女の中に恐怖はなかった。
だから、今の焔も怖くはない。
少女は、ひたすら走って誰かを探していた。
誰かの影を見つけて、手を伸ばす。
大きな男の人間の影。
その影も同じように手を伸ばす。
夢の中の焔は、その少女だった。
だから少女のように、嬉しいと思った。
いつもの焔ならば、男と抱き合って“嬉しい”なんて思わない。
男と抱き合って……
うぇー キモチワルイ!
勢いよく身を起こすと、
ここは、どこだ
見知らぬ部屋の、見知らぬベッドに寝ていた。
くそ、記憶がない……
時計塔に辿り着いたものの、関係者立ち入り禁止の為、入ることが出来なかった。
親切な女の子が、正面のお店に行けばサンタローズの衣装が売っているのだと教えてくれた
慣れない買い物に戸惑いながらも、お得な【サンタローズなりきりセット】をGET。
余ったお金で、プレゼントも店員に用意して貰った。
一応、確認のために、親切な女の子にこの姿を見せると。問題ないと微笑まれた。
最後の記憶は……さて時計塔に行こうとして……そこで途切れている。
殴られたような記憶はない。別に頭に殴られた頭もなかった。
オレ様、何していたのだ?
首をひねる。
それに、ここはどこだろう。周囲を見渡した。
あの夢の中のように、男にお持ち帰りされたのか?
いや、それは勘弁願いたい。
焔様!
視界に入ったのは、従者の汐音の笑顔だった。
汐音?
ほんの数時間離れていただけなのに、もの凄く久しぶりに思えてしまう。
嬉しい。
だけど、彼女がどうしてここにいるのだろうか。
自分は男に連れ込まれた。まさか、彼女も…………………と、恐ろしいことを考えてしまうが、汐音の表情は笑顔だ。
おめでとうございます。ここが時計塔ですよ
え?
驚いた、知らない間に自分は時計塔の内部に入っていたらしい。
そして知らない間に眠っていた。頭を抱えるが何も思い出せない。
お前、身体は大丈夫か?
エドワードだった。
汐音を連れて行ったことを咎めようとしたが、どうも彼の表情がおかしい。
もの凄く真剣な顔で、焔の身体を心配している。
気持ち悪い事を言うな
大丈夫みたいですよ
汐音が視線を向けて微笑むと、エドワードも笑顔で頷いた。
何だろう、ムズムズする。二人は何かを知っていて、それを自分だけが知らないようだ。
ほら、約束していたプレゼントだよ
エドワードに渡されたのはリボンのついた紙袋だった。
プレゼント?
言ったろ?時計塔に辿り着いたらやるって。手袋だ
いらない、オレ様、男から貰いたくないもん
思わず突き返す。
男からプレゼントなんて考えたくもなかった。返されたエドワードは、少しニヤリと笑う。何だか嫌な笑顔だ。
じゃあ、これは私が使っても良いのかな
使えよ、勝手に使えばいいだろ
汐音とお揃いだな
ニコリとした笑みが更に深まった。
?
良いのでしょうか?
視線を動かすと汐音の手にも同じ紙袋がある。中身もきっと同じ。
エリスが世話になったのだからさ、受け取ってくれよな
では喜んで
中をみてごらん
今ですか?
せっかくだから、つけているとこ見たい
………はい
少しだけ頬を赤らめながら、紙袋を開く。その様子をエドワードが微笑みながら見つめていた。何だろう、この甘ずっぱい空気は。
すごいモコモコしています
手袋を見た汐音の目が大きく見開いて、キラキラさせる。
気持ちいいだろ
はい
心底嬉しそうな汐音の笑顔を見ていると胸が痛くなった。焔はエドワードに返した紙袋に手を伸ばして奪い返す。
前言撤回!貰います、貰えるものは貰う、それが賢者様だ
最初から素直に受け取れば良いんだよ
焔様もモコモコ触りたいですよね
汐音がニコリと微笑みかけた。
(汐音、まさか焔の嫉妬に気付いてないのか? 哀れだが、私にもチャンスはありそうだな)
エドワードが内心そんなことを思っているなんて、汐音も焔も気づいていない様子。
焔も紙袋を開いて、手袋を取り出す。
お揃いだな、汐音
はい
焔もイルミネーションを見たらどうだ?
綺麗でしたよ
ニコリと笑う汐音と、何だか勝ち誇ったようなエドワードを交互に見て焔は眉根を寄せた。
二人で先に見ていたのか?
そういうこと
エドワードの笑みが気に入らなかった。
だから、というわけではないが汐音の真正面に立って彼女の瞳を見る。澄んだ瞳には焔の姿が映る。
汐音……
焔様?
命令だよ。手を握って
だから、命令は卑怯ですって……子供みたいですよ。でも……
汐音?
不意に伸ばされた手が、焔の拳を包み込んだ。
焔様に怪我がなくて良かったです。他の従者がこっそりついて来ていることは知っていますが、それでも……
他の連中もいたのかよ
何をおっしゃりますか? 私一人で異国の地までお供するなんて、荷が重すぎます
そ、そうだな……簡単に承諾されたから安心していたが……やはり連中もいたのか
二人旅だと思って浮かれていた自分が恥ずかしい。
私は従者ですから。貴方様を絶対にお護りします
今夜ぐらいは従者じゃなくても良いんじゃないかな?
エドワードがそんなことを言い出した。
焔はエドワードが汐音を好いていることを知っていた。だから、どうしてここで助け舟を出すのかわからない。
…………エド
お前の為ではない汐音の為だ
え?
汐音が目を瞬かせる。
焔、自分のことは自分でやれよ。私が手を貸せるのは部屋を提供することだけだ
わかっている
?
首を傾げる汐音にエドワードは歩み寄ると、頭をポンポンと撫でる。
ここは私の管理下だからな、他の従者の目は届かないさ
え?
恩は必ず返す。汐音はやらんがな
焔はエドワードを一瞥してから、もう一度、汐音を見つめる。
まだ理解していない汐音は不思議そうに焔を見上げていた。
汐音、これはお願いだ。目を閉じてくれ
目を……ですか?
安心して。変なことはしない
はい
素直に目を閉じてしまう。その素直さが危ういのだと思いながら、焔は口端を上げて笑みを浮かべる。
キスするだけだから
耳元にそう囁いて、
?
驚いた汐音が身を離すより前に、額に口づけをした。