時計塔の上ではエドワードと汐音がイルミネーションを楽しんでいた。

汐音(しおね)

すごい、キラキラ光っています


 汐音は身を乗り出して眼下に広がる光の絨毯に目を輝かせていた。

エドワード

だろ?

汐音(しおね)

里の子供たちにも見せてあげたいです

エドワード

汐音……はしゃぎすぎだぞ

汐音(しおね)

こんなにステキなものとは思いませんでした。エドワード様が興奮するわけですね

エドワード

そんなに興奮していた?

汐音(しおね)

はい

汐音(しおね)

……ところで、焔様は大丈夫ですかね?

 数時間会っていない主の姿を思い出す。

エドワード

時計塔は分かりやすい場所にある。

汐音(しおね)

正面からは入れませんよね。関係者以外立ち入り禁止ってなってますから。

エドワード

関係者とは、即ちサンタローズ。
時計塔に入る方法はサンタローズの恰好をすれば良いだけのことだ……難しくはない

汐音(しおね)

そういえば、立て札に書いてありましたね

サンタローズの恰好でお進みください

エドワード

買い物だって。サンタローズなりきりセットが売っている

汐音(しおね)

ですよね。焔様でも、それくらい出来ますよね


 買い物にも何度か同行しているはずだ。心配はないのだが、何だか不安になってしまう。

エドワード

私といるのに、他の男の話をするなんて良い度胸だよね

汐音(しおね)

すみません

エドワード

良いけどさ


 エドワードは汐音の頭を撫でる。

 突然、ガチャリと扉が開いた。
 二人は同時に振り返る。誰が来るのかは予想していた。現れたのは白い袋を背中に背負ったサンタローズ。

……

エドワード

やっと来たか


 そうエドワードが肩をすくめる。

 だけど、次の瞬間エドワードに起きたことは誰も予想できないことだった。

エドワード

 汐音も茫然と立ち尽くしている。現れたのは主だった。それは、そのはず。だけど……

 サンタローズはエドワードを押し倒していた。

 仰向けに倒れるエドワードは目を丸くしたままサンタローズを見上げた。

エドワード

えっと……ホムラサーン?

お兄様!

エドワード

お兄様?

 白鬚のサンタローズは焔の声で確かにそう言った。

エドワード

まさか、お前エリスなのか

 エドワードが目を見開く。

はい、たまたま賢者様の姿をみつけて。身体をお借りしました


 その説明だけでは理解ができない。

エドワード

憑依したってことか。ど、同意の上で………なのだろうな

説明している時間はなかったので。エヘ

エドワード

その顔で、可愛く首を傾げないでくれ

酷いわ。私、ノエルの奇跡で魂だけ、こっちの世界に来ているの。どうしてもお兄様に会いたかったの、お兄様とイルミネーションが見たかったの

汐音(しおね)

あの……

エドワード

ややこしい状況だけど、紹介するよ。今、焔の中には幽霊が入っているんだ。それは私の妹のエリス

汐音(しおね)

幽霊って……

エドワード

エリスは去年病気で死んでしまった

汐音(しおね)

そうだったのですね

エドワード

ノエル祭には【ノエルの奇跡】という奇跡が起きるんだよ。
私は、その奇跡でエリスが一夜だけ帰ってきて欲しいと願ったんだ……

汐音(しおね)

それでエリス様の魂は帰って来たのですね

エドワード

彼女が亡くなる前に約束したんだ。ノエル祭に行って、一緒にイルミネーションを見るって

エドワード

ノエルの奇跡、夢物語だと思っていたのに……まさか、本当にエリスと会えるなんて

お兄様!

エドワード

嬉しいのだが……

汐音(しおね)

イルミネーションを見たいと言っていたのは

エドワード

エリスとの約束を果たすため

汐音(しおね)

そうだったのですね。私たちを誘ったのは?エリス様の代わりでしたか

エドワード

ひとりじゃ寂しいから汐音や焔を巻き込んでしまった。本当にエリスの魂が来る保障もなかったしね。
まさか焔の身体に入って現れるとは思わなかったけど……

エドワード

……エリス………どうしてコイツの身体なのだ

エドワード

下手をすると国家問題に発展しかねないのに。賢者様だぞ、ヤマトでは王様と同じくらいに偉い人だ

だって、この人しか私の姿が見えなかったから

 姿はサンタローズだが。汐音にはエリスが悲しそうな顔で俯いているのが見えた。 

汐音(しおね)

でしたら、私の身体を使ってください


 汐音の申し出に、少女は顔を上げる。

あなたは?


 汐音は膝をついて、頭を下げる。

汐音(しおね)

私は賢者様の従者をしています汐音と申します。私にはエリス様の姿が見えます。エドワード様にとてもよく似た美しい姫君ですね

褒め過ぎよ………ほんとうに、身体を使っても良いの?

汐音(しおね)

もちろん……

貴方の身体じゃあまり過剰なスキンシップはできないわね

エドワード

私は歓迎だ……ぐぁ

汐音(しおね)

お願い、その身体を少しだけ借りるわ。大丈夫、少しだけ眠っているだけだから

汐音(しおね)

はい……エドワード様と楽しんでくださいね

ありがとう

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