訓練場にダンダンダンと銃声が鳴り響いた。
銃口を向けられた的には綺麗に3つの穴が開いている。

ここはサルビア国にある新兵用の訓練場。
そこで一人訓練を行う人物がいた

ジェード

これで最後だ。

そう言って彼は銃を向け直す
またしても銃声が三つ鳴り響いた。
銃弾にうち抜かれた痕は、先ほどよりも一点に集中していた。

サラ

相変わらずの腕前ね、ジェード

今から片づけを始めようとしていた彼の元に、一人の女の子がやってきた。
彼女の名はサラ・エリア。サルビア国に所属する見習い狙撃手である

ジェード

ありがとう。サラ

ジェードと呼ばれた少年は、訓練の道具を片付けながら答える。
ジェード・フェリシオはサラと同期入団の若手兵士である。

サラが狙撃手として高い技術を持つのに対し、ジェードはすべてのスキルにおいて高いレベルを持っていた。

二人は互いに違うフィールドで活躍しながらも、同期ということもあり、二人はとても仲がよかった。

サラ

遠距離だと私のほうが上だけど、近距離戦だと絶対負けちゃうなぁ

ジェード

近距離だけが戦いじゃないし、遠距離だけが戦いじゃない。
力を合わせないと、勝てっこないんだよね

サラ

わかってるよ
でも、ジェードの場合はそれが本番でできないからねぇ

ジェード

うるさいなぁ
本番は緊張しちゃうんだよ

サラ

模擬戦で緊張してたら本当の戦場に出た時大変よ?

サラがからかうように言う。
ジェードはむすっとした表情をしながらも、心の奥から嫌がっているわけではなかった。
彼女の言葉には、彼に生きてほしいという願いがこもっていることをよく理解していたからだ。

サラ

それにしても、大きな争いになってるわね……今回の戦争は……

ジェード

あぁ……。
今まで小さな争いはちょくちょく起きてたけど、今回のは毛色が明らかに違うように見える……

彼らのいるサルビア国とその隣国であるユダ国の間では長い間緊張状態が続いていた。
仲が良いのは表面上だけであり、裏では常に小さい諍いが起きているような状態だった。

お互いの国にはスパイが常に送られ続け、それが日常になる。
どちらの国も黙認しているし、流していい情報と流してはいけない情報を選別してスパイも行動する。
なれ合いの戦闘状態であったのだが、1月前に自体は急変した。

サルビア国のスパイがユダ国の人間を殺害する事件が起きた。
それにより互いの国の間にかかっていた薄氷の信頼は完全に決壊し、全面戦争へと突き進むことになった。

ジェード

サルビアのスパイもなんでユダの人間なんかを殺したりしたんだろうな……

サラ

お互いの国にスパイがいるなんてわかりきったことだし、ばれても支障はないはずなのにね

ジェード

ここまで大きな争いになるなんて思ってなかったとか?

サラ

まさか。
私たち訓練兵ならまだしも、プロのスパイだよ?

ジェード

だよなぁ……

片づけを終えたジェードは頭を掻きながらぼやく。
正直な話、本当の原因は何かなんてことは彼らにとってたいして大事ではない。しかし、この事態はジェードやサラをはじめとした訓練兵たちにとっても他人事ではない

ジェード

僕たちも前線に出るのも遠い日じゃ無さそうだ

サラ

兵士の数も足りなくなってるみたいだし

ジェード

前線かぁ……
今から緊張してきた

サラ

ホントにジェードってば弱気よね
その弱気さがなくなればもっと活躍できるのに

ジェード

何回言うんだよそれ……
もうほっといてくれよ……

訓練場そばのベンチに腰掛け、空を見ながら二人で話をしていると、カツカツと足音を鳴らしながら近づいてくる人影があった。

アリア

ジェード・フェリシオ、サラ・エリア。自主訓練か?感心だな

ジェード

ベル教官!

そこに立っていたのは、彼ら訓練兵を指導する、アリア・ベル教官だった。
彼女自身も数年前まで前線で戦っていたのだが、現在はその指揮能力を買われ、新兵の育成に回っている。

サラ

ベル教官。どうかされたんですか?

サラの問いかけにアリアの表情が曇った。
ジェードとサラはその表情の変化を見逃さなかった。

ジェード

なにかよくない話ですか?

アリア

ふっ……
これだから有能な人間と話すのは苦手なんだよ……

小さな声で呟くと、何かを決心したようにアリアは二人の目をまっすぐ見つめた

アリア

ジェード・フェリシオ、サラ・エリア。
大事な話がある。ついてこい

アリアの表情からすべてを察したのか、ジェードとサラはお互いの顔を見合わせ小さく頷き、アリアの後をついていった。

第1章:少年少女は明日を視る

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