案内されたのは、アークが寝泊まりしている場所だった。











 なぜか、複数の時計が壁に下げられている。入口にも時計があって、そのどれもが時を止めていた。通称・時計工房……住人たちは、そう呼んでいる……らしい。住んでいるアークによれば、誰かが勝手につけた名前なのだとか。

 物知りな彼は住人から頼られていた。だから、人を招くことが多いのだという。
部屋の中は綺麗に整頓されていた。
テーブルの上には飲みかけのお茶があった。

 それはラシェルが飲んでいたものらしい。
 ラシェルはコップの前に座ると、残りを一気に飲み干している。
 行儀の悪さを指摘しようとして、やめた。
今はその話をしている時ではない。

アーク

私はこの館の主ではありません……ですから、これから話す事は私の予想の範囲でしかありませんが、それで良いですか?

デューク

ああ

アーク

これは、気づいていますね? この屋敷には【一度入れば外に出ることが出来ない】魔法がかけられています

 オレは頷いた。
 開いたはずの扉が消えていた。閉じ込められたことを理解した。

デューク

だが、【絶対に脱出不可能】とは思えない


魔法によるものなら尚更、その魔法を解けば良いのだから。
それは、実力行使でも可能な気がする。

アーク

正解です。ですが、力任せにはやらないでください。他にも外に出る方法はありますから

デューク

……実力行使以外に、魔法を破る方法がある、ということか

アーク

実力行使で魔法を破るのは最終手段だと思ってください

デューク

そうか……

アーク

これを七つ集めた者は館の主と謁見することができます。そこで主に願えば、外に出られるかもしれません

 差し出されたのは手のひらサイズの青く輝くガラス玉だった。特に神聖な気配も、邪悪な気配も感じない。玩具のようにも見える。

デューク

こんな玩具のようなものを? バカにしているのか

アーク

あ……これはレプリカです。ちょっとした悪戯心で作ったものですよ

デューク

悪戯って……

 イタズラっぽく笑う大人に眉根を寄せる。

アーク

まぁ、お気になさらずに

デューク

出られるかもしれない……ってことは………出られない可能性もあるのか?

アーク

はい、その通りです。そこは館の主次第ですからね。願いを聞き入れるかどうかは知りません

デューク

それで、その玉を集める方法は?

アーク

奉仕ギルドがありますので、そこで奉仕活動を行って頂ければ報酬として渡されますよ

ラシェル

うーん……奉仕活動って?

 ラシェルが首を傾げる。

デューク

世の為、人の為に身を削る活動だ

ラシェル

ほえ? 私、これ持っているけど奉仕作業なんてやってないよ

デューク

持っている?

ラシェル

うん、階段を降りている時にね。お守りにしなよ~って貰ったの

デューク

そうか

ラシェル

外に出る為にはキラキラ取られちゃうの? ヤダな。

 残念そうに俯く。
 そういば、ラシェルはキラキラ光るものには目がない性格だった。きっと、宝物コレクションにでも加えようとか考えていたのだろう。

アーク

(先ほど、説明したはずですが……やっぱり聞いていなかったのですね)

 アークがそんなことを呟いた気がする。

デューク

御守りなら、持っていればいい。それがあると安心するのだろ?

ラシェル

うん。でも、必要になったら教えてね

 そう微笑んで、水晶玉を御守り袋にしまうラシェル。
 彼女にあれを渡したという人物も気になるが今はいい。

デューク

先ほどの話で出て来たルールとは?

アーク

この屋敷で生きる為のルールですよ。特別なことは何もないです

アーク

自分以外の個人情報を無理に聞き出さない

デューク

どういうことだ

アーク

自分が何者かを他人に告げることは問題ありません。相手が何者かを無理矢理聞き出すことは禁止です。知られたく何かを抱えている者も少なくはないでしょう

他人に興味はないので心配はいらないだろう。

デューク

知られたくない何か……か

アーク

デュークさんにも、ありますよね

デューク

なぜ、そう思うのだ

アーク

生きているのならば、心に秘密の一つや二つは抱え込んでいるはずです

 アークの胡散臭い笑みが気に入らない。

デューク

今のアークの質問はルール違反では

アーク

ありません。聞くことは問題ありません。無理に聞いて答えた。本人が話したい、又は話しても良いと思った内容ならば問題ありません

デューク

不本意な状況で答えた場合。本当は話したくなかった内容の場合は

アーク

ルール違反となります

 もしも、ここでオレが話せばアークはルール違反と見なされる。ことは、ないだろう。
アークに知られても困らないし、話したくない内容でもない。それは白猫に対しても同じだ。オレについての情報は知られても問題はない。
 話す必要がなかったから彼には告げなかっただけのこと。

アーク

自分以外の誰かの情報を他者に与えないこと

アーク

他人に関する情報を、別の誰かに与えてはいけません

デューク

おれは在る人物に、【ラシェル】が【うるさい子供】という情報は与えてしまった。ルール違反になるのか?

アーク

それがラシェルにとって【知られたくない情報】ならばルール違反です。ですが、うるさい子供、というだけではルール違反にはならないと思いますよ。こうして生きているのが証拠です

デューク

そうか……ルール違反になれば死ぬのか

アーク

はい

アーク

そして、

アーク

自分以外を殺してはいけない

アーク

ここは殺人禁止です。ただし罵ることは良いですよ。それと、死体を踏みにじることも咎められません

デューク

だから、連中は彼らが勇者を殺すのを待っていたのか

アーク

はい………勇者を殺めた彼らはルール違反により………その罰を受けて静かに息を引き取りました。死ねば、その姿は本来の姿に戻ります

デューク

本来の姿が、あの魔物

アーク

はい、あんなに小さな魔物だったのです

 殺された勇者、勇者を殺した彼らはその命を散らした。
だけど彼らが殺した勇者を踏みつけた魔物たちは咎められない。
不気味な話だと思う。
 気になることがあったので、視線を向ける。

デューク

自分以外は殺してはいけない。だけど自分を殺すことは問題ないか

アーク

はい、自殺されては、罰を与えようにも出来ませんからね


 確かにその通りだ。

デューク

…………自殺した連中もいるってことか

アーク

はい。ここを生きる場所に選ぶか、死に場所にするかは、個人の判断ですからね。自殺者を止めるつもりはありません

 生きる場所にするには窮屈そうに思える。
 

だけど、死に場所にするには………丁度良い。

“ラシェルがいなかったら……オレはここを死に場所に選んだかもしれない”

 そんなことを考えてしまったことに気付き、頭をふる。
 どうして、そんなことを考えてしまうのだろう。
 ここにいると気持ちが暗くなっていく。そんな気がしてならない。

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