そう、顔はいいんだよ
晴紘は
鯵の開き(さすがにこれは冷めている)に
箸を突き刺しながら、
横目で少女を見る。
人形のよう、としか
表現のしようがない。
腰までの長い黒髪は
絹糸のような光沢があり、
長いまつ毛に縁取られた瞳も
黒目がちで大きい。
巷を賑わせている
事件の犯人が見たら
昼日中でも襲いかかるかもしれない。
紫季(しき)も気をつけろよ? 黙ってれば襲いたくなるような顔なんだからさ
……
紫季、と呼ばれた彼女は
胡散臭げな目を向ける。
まるで
猟奇事件の犯人を
見ているかのような目で。
例の事件のことでございますか?
若い女性が深夜にふらふらとさまよい歩いているから妙な者に狙われたりするのです。
あれは女性のほうも悪うございます
そう言うなよ、お仕事なんだから
晴紘は出されたお茶を一口啜る。
熱湯だ。
いくら温かいのがありがたくても
これはちょっと遠慮したい。
最近は
深夜まで営業している店も増え
夜になっても街中は明るい。
女性の社会進出も増えつつある。
夜に働く女性と言えば、
一昔前までは
水商売を指したものだったが、
今はそうとも言いきれない。
同僚である木下女史も女性だし
今日の残業だって
彼女に付き合ったようなものだ。
事件のこともあるので
駅まで送ったが
彼女は無事に帰宅できただろうか。
紫季も灯里の手伝いで納品に立ち会ったりしてるんだろ?
今朝も四時だったか? 帰って来たの
ま。灯様だけでなく私の動向まで監視していらっしゃるのですか?
紫季は目を見開く。
美しい少女の人形を、
それも動く人形を買う、
と言うことに
後ろ暗い印象でもあるのだろうか。
その納品は
人目の少ない時間帯を
希望されることが多い。
人目が少ないということは
言いかえれば
犯罪を犯すにはいい時間帯。
若い娘がそんな時間に出歩くのは
たとえ連れがいたとしても
歓迎できるものではない。