時間が一瞬止まった。

そんな言葉がぴったりとあてはまる瞬間を初めて経験した。

……高校生活とはなかなかに刺激的である。

千裕

泰明、それ本気か?

静寂をうち破って千裕が口を開く。

泰明

ふざけてこんなこと言うと思うか

拓也

百歩譲って、泰明が権限使うとしてさ、最下位はきつすぎだと思う

大体不正だって立証されてないだろ

千裕や拓也、匠みたいに怒ってくれる人がいてよかった。
 


まさかすぎて、喉が詰まって何も言えない。

口を開くと、なんか変な声が出そうで、怖いったらありゃしない。


 
ああ、机が近くにあってよかった。

あたしを支えてくれる友達がいてよかった。



口々に文句を言ってくれる友達に感謝しながらも、あたしは覚悟を決めてるんだ。
 
意外とあたしの元カレって、頑固なの。

よく知ってるの。

拓也

絢香にその順位があってるっていうの?

拓也がひやりとした声で言った。

再び静寂が訪れる。

泰明

あってる。
絢香は人として欠落してるものがある

絢香

え?そんなこと言われたくないんだけど

口を開いて出たはずの言葉はまさかの空気で。

一斉に視線が集まる。




いや、あたしもびっくりした。

言葉にならないってこのことを言うのだろうか。

拓也

あ、絢香?

絢香

あ、違うの。
言葉にならなかっただけ

お、おおおおおれ、泣いたのかと思ってビビった

絢香

いや、あたしも一瞬何が起きたのかわかんなかったけど

千裕

もうちょい踏ん張れ

千裕が優しく背中をささえてくれる。

それに慌てる友人なんて珍しいもの見た。

大丈夫、あたしは大丈夫。


 
ふっと息を一度はいて、しっかり顔を上げれば、一瞬だけ悠美と目が合った。



くそぅ、あの女め。

あれが女狐ってやつだきっと。



勝者と敗者にやはり溝ができる。

絢香

泰明、あんたほんとそれでいいのね?

泰明

いい。
俺はお前にそれ以外の序列を認めたくない

絢香

後悔はしないのね

泰明

するわけない

絢香

そう。
わかったわ

絢香

要件はそれだけ?

千裕

おい絢香、やけになるなよ

千裕が慌てて止めるけど、別にそういうことじゃない。

絢香

仕方ないでしょ、泰明が決めたことなんだから

泰明

待てよ、島崎の処分がまだ

絢香

不正は成立しないわよ。
というか、役員がいるところであんまり役員の公平性をとやかく言うのは頭悪いんじゃい?

泰明が怒った顔したけど、知るかっていうのよ。
 


実際この状況での170位は怖い。

そんな状況に叩き落とした泰明が憎いとまではいかないけど、嫌悪の気持ちはある。

一方の話をうのみにするなんて馬鹿のやることよ。
ほんとバカ。ヘタレ。あほ。……馬鹿。



意外と思いつかない悪口になんだか悲しくなる。

泰明

……お前、最後までいい人ぶるんだな

絢香

何とでも言いなさいよ。
牧は関係ない

悠美

や、泰明君。
悠美もぉ、牧は関係ないと思うのぉ

まさかの悠美の助け舟にぞっとする。
 
全然意図がわからないんだけど。
 
それはその場のみんなも同じだったみたいで、悠美を見つめる。

悠美

1位さんがぁ、そんなに怖いとみんなに嫌われちゃうよぉ

そう来るのか。
 


何か企んでるのかと思ってしまった。

悠美の一言一言が恐ろしい。

泰明

悠美がそういうなら、まあ、しかたないな

懐柔されている。



そう思うと、ちょっといらっとしたのと同時に、悲しくなった。

そうか、もう、ほんとにあたしの知らない誰かなんだと思った。
 


時計を見ればすでに30分たっている。
部活組はそろそろ部活に行きたいはずだ。

絢香

じゃあ、解散でいいのかしら?

泰明

それはお前が決めることじゃない

絢香

聞いてるのよ

泰明

部活組はさっさと行かないと顧問に怒られるしな。
絢香の処遇も決まったし解散だ

そういって、さっさと教室から出ていった泰明。

それを見送って、外へでる。

教室から出ていく人たちを見ていると牧が駆け寄ってくる。

ごめん、絢香ちゃん。
何にもできなかった

絢香

話に入らなくて正解だよ

ほんとにごめん。
あたしのせいだ

絢香

役員って知ってて友達になったんだよ。私。
牧のせいなんて思わない。
それに私たちは何も悪いことしてないじゃない

でも

絢香

いいの。
悪いのはあのバカなんだから

千裕

ほんとバカ野郎だよな

絢香

みんなも弁護してくれてありがとう

千裕

……

みんなの顔が暗い。

それもそうか。
でも、決まっちゃたものは仕方ないし。

この数時間で軽く老けた気がする顔をちゃんと上げて、笑ってみんなに一言。

絢香

そんな顔しないで、あたしは大丈夫

これが大丈夫ではない毎日の幕開けだった。

24時間目:立っているのがやっと

facebook twitter
pagetop