放課後になった。

尋常じゃない緊張とともに掲示板を見に行く。

そこにはすでに順位が張り出されてあって。

絢香

2位……

確認して漏れ出る声。

よかった。

そして突き刺さるような視線。

視線を向ければ紫穂ちゃんが睨んでいた。
 


そっか!そうだ、悠美は?

絢香

5位かぁ

あたしの口から感想がこぼれ落ちた。

悠美も高位に食い込んでいた。

絢香

6位は……匠か

絢香ぁ、一個落ちたぁ

絢香

はいはい。
悠美が入ってるからね

納得いかねーよー。
オレー

絢香

お願いだから、ここでそんなこと言わないで

ま、でも、10位内に入るしいっか

千裕

立ち直り早いな、おい

すると、さっきより突き刺さる視線が。

首をひねって視線の先をたぐると、泰明がいた。

絢香

(言いたいことがあるなら言いなさいよーっだ)

ひと睨みしてそのまま顔を戻すと、3人はまだ順位のことを話していた。

千裕

俺一生3位なのかな

拓也

千裕は3位君とか、そのうち呼ばれると思う

6位になったオレの前でお前らよくそんな話できるな!

千裕

いや、6位もすごいことだぜ

拓也

170人中6番目だよ。すごいすごい

拓也は絶対馬鹿にしてんだろ

千裕

でも5位がなぁ……

千裕の言葉につられて、みんなの視線が紙に戻る。

確かにちょっと気になる。

悠美の方を見てみれば、まあ、いいかみたいな顔してる。
 


うーん。でも、ちょっと、なんか違和感。

オレ、悠美に負ける要素見当たんないんだけど

大きな声で言わないのと匠を挟んでいたあたしと千裕から肘鉄が入る。

うぐぅ

そして、みんなの視界を悠美が通ったのか、みんなの視線が悠美と泰明に移る。

何やら話している二人。

拓也

なんか、あそこが絢香じゃないのって不自然

絢香

仕方ないでしょー。
仁義なき戦いに敗れたんだから

どっちかっていうと不戦敗な気がするけど

絢香

うるさい、傷をえぐるな、バカ匠

突然携帯がポケットの中で振動した。

携帯を取り出すと、みんなも取り出す。



メールが1通届いていた。


『この後、学習室集合』


宛先は泰明からで、多分一斉送信の数からして、高位に当てたものだった。

こっそり千裕を見れば、あっちもこっそり見てたらしくて目が合った。
 


はあ、これはまずいかもれない。
てか、まずいわぁ。
全力でまずいわぁ。
 


窓から外を見れば、雨が降るのか雨雲が立ち込め始めていて、なんとなく嫌な予感は大きくなっていった。

メールをもらったものが意味も分からず教室に集まる。

絢香

ね、千裕

小さい声で言えば、ちらりとこちらを見る千裕。

絢香

もしもの時は、弁護しないでいいよ

千裕

負けるぞ

絢香

あんたを巻き込みたくない

千裕

でも

絢香

お願い

千裕

……

一つだけ頷くと、彼はまた視線を外した。

教室に集まると、序列役員もいた。



牧が真っ青な顔してるけど、え、大丈夫?なんとなくわかってはいたけど、大丈夫??


 
近寄りたいけど、近寄ると逆に彼女は真っ青になりそうで、グッとこらえる。

泰明

松崎絢香に不正疑惑がかかってる

みんなが集まったあたりで、泰明が高らかに言った。

ざわつく教室。


はいはい。
わかってるって。
もうね、見え見え。

絢香

根拠が欲しいわね

泰明

昼休み、島崎とあってただろう

絢香

会ってたけど、それがなに?

泰明

あやしいじゃねーか

絢香

はぁ?昨日とかならともかく、昼っていったらもう集計終わってるでしょ?

泰明

プリントすり替えとか?

絢香

そんなおっきなもの持ってなかったでしょ

泰明

じゃあ、なんで昼に会ってたんだよ

絢香

泰明君にはその場で言わなかった?

泰明

進路相談か?

絢香

そうよ

泰明

高校入ったばっかだぞ

絢香

進路なんていつだって迷うでしょ

泰明

内容教えろよ

絢香

拒否するわ

泰明

話してないからだろ

絢香

プライバシーにかかわるからよ

絢香

ねえ、泰明変よ。
難癖つけたいのはわかるけど、そんなことが証拠になるわけないでしょ?

……何なら教室のカメラ確認してみる?
役員のカメラなら公平じゃない?

泰明

そこまでする必要ねーよ

絢香

確かに、牧がそこまで身を切る必要ないわ

膠着状態は続くけど、これ行き先見えてるよね。

なんか、泥沼離婚裁判みたいになってんだけど。

水かけ論になってんだけど。

泰明

一番おかしいのは最近のお前の人気率だよ。
今、お前を支持してる人間がいないだろ

絢香

ストップ。
待って、それこそおかしな言いがかりよ。
大体高位は4月半ばには決定してるはずでしょ

安直すぎるその考えはきっと別の誰かのずさんな考えなんだろう。

ポコポコ穴がある。


一つ一つ指摘していけば、泰明は逆ギレした。

ホントに短気なんだからもう。

泰明

ああ、まどろっこしい。
俺はこういってんだ。
お前に高位の資格はない

絢香

ふっざけないでよ。
あのね、それは泰明が決めることじゃ……ん?

悠美

絢香ちゃん。
高校の序列規定見たぁ?

絢香

ありがとう、悠美。
あたしも言ってて思い出した

あったわー。なんがそんな項目。
誰も使ったことがない最悪の項目。



そんなことすれば、来年の序列おちは目に見えてるから絶対使わない1位にだけ許された権限。
 

ざっくりまとめると、高位序列(10位まで)なら1位の権限で好きな序列つけられるってやつ。
 


誰だよ、そんな制度考えたの。ふざけんな。

絢香

本気?

泰明

ああ、最近のお前はおかしい。
1年間頭冷やせ

絢香

あれを使うときは、理由も必要だったと思うけど

泰明

だから言ってんだろ。
お前の不正疑惑だ

絢香

……信じらんない

泰明

現実だ。
1位権限で2位松崎絢香を170位に落とす。
他の全員はその分繰り上げだ

迷いもなく泰明は言ってのけた。

生まれて初めてこの人に対して失望した。



あたしの知ってる彼は決して下すはずのない、愚かな決断を、目の前の何かは行ったのだ。

pagetop