ゴールデンウイーク期間も開け。

いよいよ序列の発表という日。

あたしはいつも以上にドキドキしていた。

今年は本当にどうなるかわからない。

 

でも、時期的に高位の順位が付けられ終わった後のごたごただから、きっと順位はそんなに変わらないよね。
 

なんて気持ちもあるんだけど、ほんとに、本当に心配。

何が起きるかわかんないし。
 

さすがに学年中が授業に集中できてないことがまるわかりなのか、今日の授業のほとんどが自習になった。

先生の監視のもと、プリントを解いていく。
 


自習課題という側面もあり、するすると回答を書いていくと、必然的に余る時間。

週の初め、月曜日なのに、なんて嫌なドキドキなんだろう。

 
この状況で下位にでもなろうものならば、あたしの処遇は一体。

かすめる暗い不安。


それでも、時間は平等に過ぎていくもので、すでにお昼の時間になっていた。

絢香

やばい。
いい感じにドキドキする

千裕

俺は自分の順位より絢香の順位にドキドキしてる

同じく。やばいよ。
下位だったら、オレ、どうしよう

絢香

ちょ、縁起でもないこと言わないで

 
ご飯のために机を寄せ合っていると、牧がかけてくる。

ごめん、今日ちょっと委員会の方で集まりあるから

絢香

らじゃー

拓也

今日は牧大変そうだね

絢香

そうね。
放課後までは忙しいだろうね

千裕

ま、とりあえず食べようぜ

一人だけ人数の減ったお昼の時間。

たったそれだけなのに、あたしの心は埋めようのない穴が開いていた。

ふと、何気なく机の中に手を入れると、カサリと何かが手に当たった。


 
なんだこれ。

机の下でそっと見てみると折りたたまれたメモ用紙だった。

あたりを窺って、そっと広げてみる。

そこには手紙が書いてあった。



    “お昼休み半分過ぎたら空き教室に来て”



牧からの手紙だった。

わざわざお昼休みって、なんだろう。

そうは思ったが何か用事だったら悪いと思って、とりあえず席を立つ。

千裕

どっかいくの?

絢香

んー。
呼び出されたー

千裕

一緒いく?

絢香

そこまでしてくれなくて大丈夫だよー

千裕

最近物騒だから

絢香

……一緒に行ってください

思い直してお願いすると千裕が立ち上がる。



本気、申し訳ない。

お昼休みをつぶして申し訳ない。

空き教室に入れば、まだ牧は来ていなかった。

千裕

誰から?

絢香

牧からー

千裕

ふーん

絢香

なんだろーね

千裕

……牧から?

怪訝な顔をする千裕。

あー、やっぱり思った?

あたしも変だと思ってる。

千裕

牧ならこんな微妙なタイミングで呼び出ししないと思うんだけど

絢香

でも、もしかしたらって思ったら無視できないよね

千裕

連絡は?

絢香

携帯の方には入れたけど、返事帰ってこないのよね

千裕

委員会か

絢香

うーん

千裕

帰った方がよくないか

絢香

そんな気もする

二人で帰ろうかと思案していると、私たちがいる方のドアが開いた。

あ、絢香ちゃん

扉を開いたのは牧だった。

どうしたの?

絢香

え?牧から呼び出しだよね?

……よし、絢香ちゃん。
今すぐここから出よう

絢香

そうね。早急にこの場を立ち去りましょう

そういったところで、後ろのドアが開いた。

千裕

絢香

うわぁ

泰明

……

ドアを見れば、そこに立っていたのは泰明で、しかも若干怒っていらっしゃる。

何もやましいことをしていないはずなのに、心臓が一生懸命仕事を始める。


 
いや、落ち着け心臓。

何も悪いことはしてない。

そんなに緊張するなよ、心臓。

泰明

なにやってんの?

冷たく言い放たれた言葉に私たちに緊張が走った。

あたしがちょっと進路相談聞いてもらってたんです

泰明

こんな時期にか?

進路はいつだって待ってくれませんよ?

泰明

ほんとか?

絢香

……まだ、相談は始まってないわ。
それより先にあなたが来たもの

泰明

でも、今お前ら出ようとしてたよな

絢香

お昼休みぎりぎりになっちゃったし、早く教室に帰ろうっていってたのよ

泰明

ふーん

 
納得がいかないような顔をしてはいるが、一応そこで話は終わった。
 
ふと、彼の後ろに人影が見えた。

絢香

悠美?

 
ポロリと出た言葉に、人影が反応する。
 
反応はするが出てくる気はないのか、そこから動かない。

千裕

なんだよ、泰明。
彼女と仲良くしたかったのか?

泰明

ちげーよ。
序列役員と推定高位が二人であってるって聞いたから見に来たんだよ

絢香

……二人じゃないわよ?

泰明

陰で見えなかったんじゃね?

きっとそうだよ

千裕

行こうぜ、絢香

 
千裕のその言葉で、あたし達は外に出た。
 
廊下には思った通り悠美がいたけど、決して顔を上げることはなかった。

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