序列発表が迫った放課後、部活を休んだという千裕と一緒に帰った。



休むのはよくないことだが、すでに顧問には連絡済だから、仕方ない。

いったい何が仕方ないのかわからないけど、仕方ない。

一人で帰るには憂鬱すぎる。



お家までの道のりをてくてく二人で歩いた。

帰りに二人とか噂に拍車がかかりそうだけど、もう別に、あたし、フリーだし。

という投げやりな気持ちで、帰る。



千裕には悪いけど、今日はあたしの愚痴に付き合って。

全力で付き合って。


 

絢香

はぁ、男の子ってなんでそこにこだわるのかな


 

千裕

ははっ、確かにな

 
唐突に始まった愚痴にも嫌な顔をせず、相槌を打ってくれる。

この、天然たらしめ!

今だけはありがとう。

 

絢香

私は、絶対ほかに男なんて作ってないのに


 

千裕

そうだよな


 

絢香

そもそもさ、いや、同時だったら問題だけど


 

絢香

なんで、前に誰かと付き合ってたら問題なの?


 

千裕

まあ、最初の男になりたいんじゃないのか?

絢香

いやいや、え?そこ重要?

千裕

男にっとっちゃ、結構な

絢香

そっかぁ、うーん……それにしたってなぁー

千裕

ん?

それにしたって、一方的すぎやしないか?

放課後にナンパされるのも、まあ、ない話じゃないし?


 
それにあの写真。
ぼやけすぎて、


      "わー!あやかっぽーい!"



っくらいしか、わからないと思う。


もう少し、調べるなりなんなりしてくれてもいいと思う。

それこそ、本人に聞いて反応を見るとか、いろいろあると思う。



それを差し置いて、悠美を信じるなんて……。



夕暮れ、坂道、さみしい。
……さみしいより、切ない。

絢香

信じてもらえなかったなーって

千裕

ああ、それ

絢香

しかもさ、あのメールはないと思うわけよ

千裕

そうだな

絢香

ねぇ、ちゃんと聞いてる?

千裕

聞いてるよ、珍しいなって

千裕が適当な相槌打つから突っかかると、かわされる。


ちゃら男め!

安心と安定のちゃら男め!

絢香

珍しく愚痴も言いたくなりますよー

千裕

はいはい。
でも、今後どうすんだ?

絢香

どうしよう。
あたし、いじめとか受けたことないからわかんないんだけど

千裕

序列直前爆下げあるか?
タイミング的に安心か?

絢香

……はぁ、最悪。
もう、何にも考えたくない

千裕

ちょっと、様子見てみれば?

絢香

んー、それしかできない…

千裕

高校生なんだし、今時いじめとか、続かないかもじゃん

絢香

だといーなー

自宅が見えてくる。



さすがにいい年下男女が、放課後お家に入っていったら、噂を呼ぶよね。

名残惜しい。

なんせ、今のあたしには彼だけが愚痴を言える相手だもの。



彼だけが、あたしを甘やかしてくれるんだもの。

ちょっとだけ、そんな弱い心が脳裏をかすめた。

立ち止まって、彼を見上げる。

絢香

はぁ、お見送りありがとう

千裕

いや、俺も送りたいって思ったし

絢香

話し相手ほしかったからよかった

千裕

お気に召したなら光栄だよ

絢香

もー、甘やかさないでよ

千裕

はいはい、じゃ、戸締りしっかりな

絢香

かしこまりでーす

やさしい彼は、ちゃんとあたしが玄関に入り、鍵を閉め、チェーンをかけることろまで確認して、ドアの前から去っていく。


少しだけ、やさしい気持ちになったあたしは、夕飯の支度にとりかかる。

序列発表は、ゴールデンウイーク明け。
次、学校に行くときに、すべてが決まる。

20時間目:落ちていく

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