絢香

メール見てくれた?

夜、あたしは泰明に連絡を入れた。

もう遅い時間だったけど、あの公園で待ってるって言って。



約束の時間はとうに過ぎていたけれど、あたしは泰明なら来てくれるって思ってた。

だから、時間が大幅に過ぎても、ここで待ってた。



例にもれず勉強をしながら。

泰明

ああ、やめようかと思ったんだけどな

絢香

ずっと待ってるだろうって?

夜だからか暗い顔をしている彼。



変わってしまった関係性。

失った信頼。

全部、あたしが怠惰だったせいかもしれない。

ちゃんと、彼を見ていればよかった。

好きでいてくれていることが普通になっていて、ちゃんと彼を見れていなかったのかも。



だから、やさしい彼にこんな選択をさせて、悲しい顔をさせたのかも。



悠美にも腹が立つけど、自分にも腹が立つ。

泰明

認めたくないけど、お前はまつっていったら待つからな

絢香

あはは、さすがわかってるじゃない

泰明

……

沈黙する彼。



一定以上踏み込まない。

他人行儀。

そんな言葉がぴったりと張り付く。



気づいてるかな。この公園。

昔よく遊んだところだよ。

あなたが告白してくれた場所だよ。

初めてのデートもここだったよね。



絢香

それだけわかってるのに、どうしてあたしの気持ちはわからないの?


 

泰明

わからねーよ

 
間髪入れずに帰ってくる冷たい声。

わかりやすく拒絶が伝わってくる。



そうだよね、あなたはやさしいけど、頑固だ。

一度決めたら、なかなか考えは変えない。




4月も終わりに差し掛かっているのに、夜風はあたしに冷たく、街頭はあたしを照らしてはくれない。

会いたくて会いたくて、話しをしたかった彼は、もう、あたしには心を見せてくれない。



少し、さみしい。



でも、あなたが決めたことならしかたがない。


それが誰かに誘導されてのことだとしても、そんなこと、あたしには関係ない。



あなたが決めた道。

下された決定。

あなたが決めたんなら、あたしだって腹を括る。
 

絢香

わかった。

絢香

でも、覚えといて。
あたしは、絶対、ほかの人に心を渡すなんてしてない。
そんな不誠実なこと、絶対、やらない

宣言とも取れる一言を置いて、あたしは公園を出る。



泣いて捨てないでとすがりたかった。

あたしを信じてと、取り乱したかった。



でも、あたしはあの人には幸せでいてほしい。

その隣が、あたしじゃなかっただけ。

大好きなあの人だから、絶対もう、そばにいけない。

あんな、教室でのあんな視線、耐えられない。
 


意地と惚れた弱みと少しの後悔とともに、二度と交わらない道を歩き出す。

 

泰明

……しんじられねーよ

19時間目:会いたくて

facebook twitter
pagetop