絢香

人間やれば何でもできるのね

半ば投げやりに教室に駆け込めば、先生がおまけでセーフにしてくれた。



ありがたいです。

今の状況で罰とかくらったらあたし死んじゃう。


そして、席に着こうとしてあたしは息を詰める。

絢香

あははっ!
私これ、ベストタイム出たよ、きっと

突然わけのわからないことを言い出したあたしを不審に思って、千裕が近づく。

あたしが見てるものを見て、ため息をつく。

先生、この机じゃ授業受けられないです。

千裕

わぁ、古典的

絢香

目には目をってやつかな?

そこに、拓也がめんどくさそうに、新しい机を持ってきた。

あ、拓也は先に学校に来てるからすでにこれ見てるのか。

それでもあたしを学校にひっぱてくるとか、お前は敵か。鬼か!

拓也

僕、勉強の邪魔されたくないから体育委員やめたのに

冷めた目で周りに視線を促される。

教室を見回せば、心配そうな顔した人2人。

嘲笑ほか多数。


どうでもいいからホームルーム始めたそうな先生一人。

絢香

……ご、ごめん。
え、ええと!
今度わからない問題
教えてあげる!

拓也

それ、もう、2回目だから

絢香

うぐぅぅ

辛辣な拓也の言葉は、意外にもあたしをやさしい気持ちにしてくれる。



千裕も、笑いながら机を交換するの手伝ってくれる。

……教科書持って帰ってて良かった。

最悪の末路しか見えなかった。

意外とへこたれないあたしに、教室の空気が澱むのが分かる。


あのねぇ、こんな古典的ないじめは初めのインパクトはあるかもしれないけど、あとは毎日やることによって積み重ねられるストレスが醍醐味でしょうが。

インパクトってのは意外と吹っ切りやすいものなのよ。

絢香

あー、もうめんどくさい。
誰がこれやったか知らないけど、立派な犯罪よ。
これは学校の所有物。
それだけは理解しておいた方がいいわよ

千裕

あーあ、また敵を増やしそうなことを

絢香

実際そうでしょ

千裕

そうだけどさ

ざわめく教室。


先生は席につくように促す。

はいはい、席につきますよ、あたしは話をしたいんじゃなくて自分がやったことが犯罪だって知ってほしいだけだし。


これくらいで引くんなら、初めからしないでってはなし。

動揺する教室で、碧ちゃんがおかしそうに笑う。

せんせぇ、でもぉ、絢香ちゃんがぁ、変なことしなかったらぁ、こんなことなってないですぅ

紫穂

そうね、絢香ちゃんが悪いんじゃないの

自業自得なんだし、自分できれいにしろよー

さすがは、性悪3人。


これくらいじゃ、何ともないのね。ゆさぶりにもなってないじゃない。

絢香

自業自得ってのは、反論させてもらうけど。
きれいにするわよ。
私、美会員だもん。
校内清掃は私の仕事でしょ?

舌打ちする翠ちゃん。


口であたしにかなうなんて思わないでね。

ただ、不気味なのは悠美が何も言わないこと。


どういうつもりだろう。

こっそり悠美に視線を移せば、傍観している。

自分は全く関係ない顔してる。
……こわっ!!

先生

あー、そろそろ初めていいか?

先生のその一言で、あたしたちは慌てて前を向く。

悠美の時は廊下まで運んでいた机は、時間がない関係で教室の隅に置かれている。
 


悪意の象徴のようなその机は、そのまま教室でのあたしを表しているようで居心地が悪かった。

18時間目:放り投げられる

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