焔(ほむら)

とにかく、汐音を解放しろ

エドワード

そうだったな。ごめんね、汐音


 部屋に入るまで拘束されていた汐音は解放されると、息を大きく吐いた。
 抵抗をしなかったのは、相手が知人であるエドワードだからだろう。
 汐音は、息を整えてエドワードを見据える。

汐音(しおね)

お久しぶりですエドワード様

エドワード

久しぶりだな。汐音

汐音(しおね)

それで、白鬚になるという呪いは?

エドワード

そんなものはないさ。少しだけ焔をからかっただけ

 笑いながらエドワードは髭を外し、着ていたものも脱ぎ捨てる。


 焔は慌てて汐音の目を塞いだ。男の裸など見せられないとそう思ったからだ。
 服を着ていた。良かった。
 隠していた手を離すと、汐音は不思議そうに見上げる。

エドワード

本当に、立派な従者で羨ましいよ

汐音(しおね)

からかっただけなら良かったです


 汐音は胸をなでおろす。

焔(ほむら)

良くないだろ。オレ様、本気で怖かったんだぞ。麗しいこの顏に髭が……汐音、慰めてくれ

汐音(しおね)

それで、エドワード様は何をしていらしたのですか


 焔の話は聞かずに、汐音は話を進める。

エドワード

はやく汐音に会いたくてね

汐音(しおね)

冗談はおやめください。招待状は焔様宛であって従者として誰が来るのかまでは分からなかったはずですよ

エドワード

汐音の可能性は高かったと思うけどなぁ。他の従者の方々には私は嫌われているし

汐音(しおね)

え? 嫌われていたのですか

エドワード

汐音だけだよ。私に、無垢な笑顔を見せてくれるのは

汐音(しおね)

私以外の従者って男の方ですから、無垢な笑顔は向けませんよ

エドワード

そうだなぁ

エドワード

私が神様にお願いしたのだよ。汐音が私のもとに来てくれますように~って

焔(ほむら)

エド! うちの子をナンパするな。本当の目的を言いなさい!

エドワード

はいはい

エドワード

ノエル祭のイルミネーションを見る為さ

焔(ほむら)

ノエル祭?

汐音(しおね)

いるみねーしょん?


 二人同時に首を傾げる。

エドワード

ノエル祭はこの国に古くから伝わる古の神の生誕祭。簡単に言うと大事な人、好きな相手と過ごす日だよ


 エドワードは手を伸ばして汐音の髪を撫でる。

汐音(しおね)

好きな、相手……

 汐音は焔とエドワードを交互に見る。

 エドワードは焔を招待したから、自分たちは今マスクリス国にいるのだ。



 ということは……

汐音(しおね)

///

汐音(しおね)

そういうこと、だったのですね


 少しだけ頬を赤らめた汐音は、数歩下がると口に手を当てて小さく頷く。

エドワード

汐音、もの凄い誤解をしているように見えるが

汐音(しおね)

大丈夫です。エドワード様。そうだったのですね、エドワード様が恋人の一人もいない……その理由がそうだったのですね

焔(ほむら)

汐音……どうして下がるのだ


 少しずつ下がり、二人を見る。
 二人とも、女性陣がため息をつくほどの美貌を持っている。
 お似合いだ、そう汐音は思った。

汐音(しおね)

私、お二人の邪魔にならないように護衛します

エドワード

誤解をしないでくれ。汐音ならともかく、こんな軟弱野郎は願い下げだ

焔(ほむら)

それはこっちのセリフだ、童貞王子が。汐音、こんな男からは離れなさい

汐音(しおね)

そうだったのですね。勘違いしてすみませんでした


 慌てる男二人を交互に見て、汐音は頭をさげる。
 てっきり、エドワードは焔と夜伽を過ごしたかったのだと思った。

エドワード

わかってくれれば良いよ。話を戻そうか……イルミネーションとは、光で彩られた装飾。街全体を色とりどりの電球で飾るんだ。夜になるとキラキラ光って綺麗なんだよ


 エドワードは楽しそうに話し始める。二人には馴染みのないことだったので、イメージも浮かばなかった。とりあえずエドワードの様子から、楽しいものなのだとはわかった。

汐音(しおね)

ヤマトにはありませんね

焔(ほむら)

そうだな


 焔と汐音は視線を絡ませて頷きあう。

エドワード

さっきの姿はサンタローズと言って、夜になると子供たちにプレゼントを配る……物語の登場人物だ。街の中にも似たような恰好の連中いただろ? 祭りを盛り上げる為に商売人たちは仮装して人々を楽しませているんだ

汐音(しおね)

そうだったのですね

汐音(しおね)

サンタローズは素敵な存在なのですね

エドワード

だから、楽しませてあげるよ……汐音

汐音(しおね)

へ?

焔(ほむら)

汐音?

 突然のことで、何も対応できなかった。
 気づくと、サンタローの恰好をしたエドワードの腕の中に居た。口を押さえられているので声も出せない。

汐音(しおね)

(エドワードさま?)

エドワード

フォッ フォッ 焔よ……サンタローズからお主にプレゼントを用意してやろう。夜の12時に時計塔に来るがよい

焔(ほむら)

エド! 貴様、うちの子に何する気なんだよ

エドワード

何もしないさ。ただね、焔……汐音がいないと何も出来ない……って男として恰好悪いぞ

焔(ほむら)

はぁ?

エドワード

いくら主従だからって、公の場で女の子に靴を履かせてもらう男なんて

焔(ほむら)

見ていたのかよ!

汐音(しおね)

(確かに……恥ずかしいですね)

焔(ほむら)

何で、頷いているんだよ汐音

エドワード

自分の力で、私のプレゼントを手に入れることが出来れば返してあげるよ

 ニコリと微笑んで窓を開ける。
 突然冷たい風を浴びたので焔は目を閉ざした。
 再び、目を開くと二人の姿が忽然と消えていた。

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