あたしの人生で、教室に入りたくないなんて思うことはないと思っていた。

教室は騒がしく、きっと犯人探しに躍起になっていて、ほとんど犯人はあたしになっていて、なぜだかそこには泰明がいて、隣には泣いてる悠美がいて。

そんな出来すぎた状況に出くわしたときのあたしの気持ちと言ったら、人生の最悪を極めていると言っても過言ではない。

 

絢香

おはよー


 

あ、絢香さ、ちょっと聞きたいことあるんだけど


 

絢香

えー、何?
どうしたの?


 

紫穂

……昨日ね、悠美が昨日階段から突き落とされたの。
知ってるよね?


 

絢香

さっき拓也から聞いた。
大丈夫?


 

紫穂

学校の近くの歩道橋なんだよ、落とされたの


 

絢香

悠美の怪我は?


 

悠美に怪我はないってゆうかぁ


 

絢香がやったんじゃねーの?


 

この間の机もぉ


 

絢香

私がそんなことするわけないじゃん


 

悠美

……悠美は、絢香ちゃんそんなこといしないと思うんだぁ


 

絢香

ほらね?
する理由もないし

そう言って四人を見るけど、全然納得してないようで、悠美が顔を伏せた。

 

そう、だよねぇ。
絢香ちゃん悠美と争う必要ないもんねぇ


 

でも、じゃあ、誰だよ

嫌だな。泰明はさっきからこっち見ないし。

紫穂はずっと話さないし。

教室の雰囲気としてはあたしが犯人の空気で、空気は最悪。

悠美は何考えてるのかわからないし。

男子は話し突っ込める空気じゃないし。

あたしは下手に動けないし。



これは、負け試合になってきたな。

泰明と二人であとで話ししても無理かな。

話出来る状況だったら、話したいな。
 


このあと、どうしよう。

自然とあたしに悪意ある視線が集まる。

 

取り込み中悪いけど、絢香ちゃんには理由がないわよ

いつの間にか教室に入ってきていた牧が、少し怒りながら言う。

 

あたし序列役員だから、みんなの動向を探ってるけど、理由がないわ


 

紫穂

どういうこと?


 

悠美ちゃんと絢香ちゃんはどれをとっても頭一つ分差がある。
絢香ちゃんが悠美ちゃん
を意識する意味がない。
まあ、現時点人気という一点においては、負け気味ではあるけど、ほかで勝ってる。
てことは、意識する必要がない


 

絢香

意識はしてるけど、一緒に高位になりたいなって、私は思ってる。
私は悠美にひどいことはしない

言い切れば少しだけ場の空気が和んだ。

これで、誰も何も言わなければ、あたしはこのまま逃げきれる。



なんて、甘い考えをしていた。

 

泰明

絢香には理由あるぜ

視線が一気に泰明に集まる。

 

泰明

俺、悠美と付き合うことにしたんだ


 

絢香

は?


 

泰明

悠美と付き合うって今日決めた

え?あたし、なんにも言われてないんだけど。

堂々、浮気発言?あ、まさか。



慌てて、携帯を開くと、そこには一通のメールが入っていた。

 

泰明

俺、好きな奴できたから、別れる

たったメール一文で、別れたことにされてる。



近くにいた千裕たちがメールを覗き込んだ。

息を呑む音が聞こえる。
 

て、言うかさ。悠美以前にさ。

 

絢香

あのさ、人としてどうよ?


 

泰明

先に裏切ったのはお前だろ?


 

絢香

なんのことだか全然わからないわ


 

泰明

もう聞いてんだろ、そいつらから


 

絢香

あなたの口からあとで詳しく聞こうと思ってたのよ


 

泰明

聞く必要もねーよ、俺はお前の裏切りを許さない


 

絢香

裏切りってなんのことかしら?


 

泰明

俺とは違う男がいるんだろ?


 

絢香

あたしにそんなすきがあるように思えるのかしら?


 

泰明

写真と目撃情報がある


 

絢香

あたしの言葉より、そんなものを信じると?


 

泰明

実際にある証拠を俺は信じるよ

唖然とする。



この人はたったの1週間前までは、あたしの味方だと公言してくれていた。

あたしに何かあったら自分を頼れと、そう言ってから、まだ1ヶ月も経っていない。立っていないのだ。
 
呆然と泰明の方を向けば、悠美が小さく笑ったのが見えた。

15時間目:かたくなに

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