でも本当にそうだと思わない?
被害者の代わりに刻まれてくれたほうが、ずっと社会のお役に立つってもんよ

……あれ、すっごく高いんすよ?
それこそ家買えるくらい








 
価格はともかくとしても、
被害者の代わりに
切り刻まれてしまえばいい、なんて
それこそ灯里が聞いたら怒るだろう。


滅多に会うことはできないが
それでもたまに
出会うことのできる彼女たちは




つぎ込まれた大金に
相応しくないほど

どの娘も
憂いを帯びた目をしていた。





顔の造形など
作り手の腕如何(いかん)で
どうにでもなるものだし

形だけを見れば
笑みをたたえているようにも見える。


それなのに

心の奥深いところに
悲しみを潜ませているように感じる。

































 感情もなにもないはずなのに。























 美しい外側を剥がせば





ただ、
ばねやぜんまいが
回っているだけなのに。





































でもさ、人形なら壊されても直せるじゃない?
人間はそうはいかないんだから、やっぱりあの娘たちを刻んでおいてほしいわ。

綺麗だから刻み甲斐もあるでしょ

……

 

木下女史の嫌味が混じった台詞を
晴紘はただ笑って聞き流した。










嫉妬もいくらかは
混じっているのだろう。

極限まで美しく、儚く、と
作られた彼女たちに。






そしてそれは
女史だけの意見ではなく

世の女性の大半が
心の隅で思っていることでもある。









いつまでも
若く美しい時の姿のまま。




それは
世の女性たちにとっては
どれだけ欲しても
手に入れられないものなのだから。



























 だが、
だからと言って
彼女たちを身代わりにすればいい
と言うのは乱暴な意見だ。

それは
自分が男だからというわけでも、
人形技師の家に間借りしているから
というわけでもない。






 彼女らを身代わりにするのも、
なんの理由も無く選ばれて
殺される被害者たちも、



どちらもあってはならない。














 きっと。













【壱ノ壱】自動人形・肆

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