あんまりだと思わない!?
今朝も
木下女史が息巻いていた。
捜査課の片隅からにもかかわらず
部屋中に響くような大声は
既に名物となりつつある。
書類を眺めたり
お茶を飲んだりしていた面々が
「またか」という顔つきで
彼女に視線を投げ……
……さりげなく視線を外すのも
「いつものこと」になりつつある。
あたしたちだって頑張ってるじゃない!
こんなに無能呼ばわりしなくたっていいでしょ!?
と、机に叩きつけられたのは
昨日発売の週刊誌。
彼女曰く
三流で品が無い大衆娯楽誌
だが、
結構売れている。
こういうのを鵜呑みにした馬鹿な読者が嫌味を言ってくるんだから!
警察にかかってくる電話は
事件の情報ばかりではない。
聞く側からすれば
嫌がらせにしか思えないようなことを
かけてくる相手もいる。
意気込みはともかく
まだ新米、と言うこともあって、
彼女はその手の電話の相手を
させられることが多いから
「面白いというだけで
在ること無いこと書くのはやめてくれ」
と、腹立たしく思うこともあるだろう。
まぁそう言うなってキノちゃん。
検挙できないのは事実なんだし
課長まで!
キッ!
と目尻を吊り上げた彼女に
当の上司は逃げるように部屋を後にする。
その背に向けていた目で
彼女はそのままジロリと見回した。
遠巻きに見守っていた同僚たちが
……
さっと目を反らした。
まったくもう! うちの男どもは!
彼女は男顔負けに
と、腰を下ろした。
椅子が悲鳴をあげる。
「女性なんだからおしとやかに」
なんて嫌味を言える猛者は
この課にはもういない。
だいたい、切り刻むなら自動人形でも刻んでおけばいいのに
物騒な台詞に
隣席の晴紘はちら、と
彼女を横目で見上げた。
……
その視線に気が付かない
木下女史ではない。
鬼の形相のまま
ははーん、と口角を上げる。
怒っているような
笑っているような
顔つきに
晴紘は
蛇の前のネズミの如く
動きを止めた。
そう言えば、大庭(おおば)くんって森園灯里(もりぞの あかり)の家に下宿してたんだっけ?
え、ええまぁ
明らかに
照準を自分に定められた。
薄笑いを浮かべる女史を前に、
晴紘は椅子ごと後ずさった。