時計塔の鐘の音が
暗い夜空に溶けていく。



 その錆びついた音色に、
晴紘(はるひろ)は
腕時計の針を確かめた。

わずかな月明かりを受けて
辛うじて見えたのは、
一時を五分ほど過ぎたあたり。




なにかが潜んでいそうな
闇夜だからだろうか。

この鐘の間抜けさ加減を
可笑しいと思うのは。





 これが寺の鐘だったら
こんな時分に誰が鳴らしているのだろう、
などと
不気味に思うかもしれない。

が、
機械仕掛けの鐘というのが
かえって良かった。

……

ブリキのおもちゃを見るような目を
時計塔に向け、
彼は外套の襟を合わせなおした。



























都も外れとなれば
繁華街のような賑わいは
微塵も感じられない。

彼が歩いているこの道も
舗装はしてあるものの
街灯などは全く無い。


そのくせ
木だけはやたらと生えているのだから
夜ともなれば
ほとんど人どおりは途切れてしまう。







……まぁ、見るからに金の無さそうな男を襲う物好きもいないか













都心のほうでは
とある猟奇事件の噂が持ち切りだ。


夜になると
妙齢の女性が次々に襲われるという、
恐ろしく
それでいて華やかな事件。






行方不明になった彼女らは
数日後に

死体の一部を切り取られた形で
発見されると言うのだから、
ただ面白く
見ているわけにはいかないが。



















それでも
「女性」から縁遠い者からすれば
対岸の火事。

自分たちは襲われる心配もないという
安心感もあって、

連日

ゴシップ紙の紙面を賑わせている。











【壱ノ壱】自動人形・壱

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