時計塔の鐘の音が
暗い夜空に溶けていく。
その錆びついた音色に、
晴紘(はるひろ)は
腕時計の針を確かめた。
わずかな月明かりを受けて
辛うじて見えたのは、
一時を五分ほど過ぎたあたり。
なにかが潜んでいそうな
闇夜だからだろうか。
この鐘の間抜けさ加減を
可笑しいと思うのは。
これが寺の鐘だったら
こんな時分に誰が鳴らしているのだろう、
などと
不気味に思うかもしれない。
が、
機械仕掛けの鐘というのが
かえって良かった。
……
ブリキのおもちゃを見るような目を
時計塔に向け、
彼は外套の襟を合わせなおした。
都も外れとなれば
繁華街のような賑わいは
微塵も感じられない。
彼が歩いているこの道も
舗装はしてあるものの
街灯などは全く無い。
そのくせ
木だけはやたらと生えているのだから
夜ともなれば
ほとんど人どおりは途切れてしまう。
……まぁ、見るからに金の無さそうな男を襲う物好きもいないか