トロー

おお、綺麗な朝陽だな!

…………

トロー

どうだ、綺麗だろう?

…………

よく考えたら、この小屋に来るまではずっと目をつぶっていたんだった。

おかげで、朝陽どころか雪すら初めて見た。



そっと、雪を手で触ってみる。
どこか、冷たさに慣れてしまった自分がいた。

グルー

どうも、お世話になりました

いえいえ、また機会があれば是非お越しください。いつでもお待ちしております

ところで、皆さまはこれからどこへ?

グルー

明確な居場所は決めてないんですが、南に向けて旅をしようと思ってます

この辺は標高が高いのもあってかなり冷えますからねぇ。麓まで降りれば雪も見えなくなると思いますよ

トロー

麓まではどれくらいかかるかな?

舗装された山道までたどり着ければ、半日でたどり着けると思われます

グルー

ちなみにだが、麓に泊まれる場所はありますか?

ありますよ。ただ、そこを過ぎるとしばらく街に着かないので、気を付けてください

グルー

ありがとう

あ、それとあなた

…………?

……?

そう、あなた。その格好じゃ寒いでしょ?

…………

言われてみれば、体がとてつもない位ブルブル震えている。

今まではずっと雪の中で倒れてたから、感覚がおかしくなってたのだろうか。



よーく実感した。

これが「寒い」ということなんだ。

せっかく元気になったのに風邪をひいたら悲しいですからね。

そう言って、女の人が差し出したのはモコモコという言葉がピッタリな分厚い上着だ。

トローに手伝って着せてもらった。
袖が少しぶかぶかだけど、とても温かい。

ちょっと大きかったですかね?

トロー

これから大きくなるんだ、丁度いいと思うぞ

…………

お礼を言おうとしたが、やっぱりうまく喋れない。


というより、「お礼」って何を言えばいいんだろう。
昨日グルーにしたみたいに、抱きつけばいいのかな?

グルー

どうも、何から何まで

いえいえ。旅の無事を祈ってます

トロー

大丈夫か?

…………

寒い

というより痛い。


雪の上を裸足で歩いてる上に、風も恐ろしく冷たい。

足に関しては、冷たいとかそういう優しい感覚ではなくなってきていた。


なんだか焼けるように痛い。
歩き始めてから、あっという間に体温が奪われて体が重くなっていた。

おまけに、今までこんなに歩いたことはなかった。

ずっと雪の中で丸くなっていたから当然かもしれないけど、雪山を歩くってとてつもない体力を使う。


二人に遅れないように頑張って足を動かしても、どうしても体がうまく動いてくれない。

トロー

グルー、もう少しゆっくりにできないか?

グルー

そうは言ってもなあ、山は暗くなるほど寒くなってくるし、麓まで降りれば宿があるんだ。正直野宿なんてしたくないし、なるべく急ぎたいんだよ

…………ぁっ!

トロー

大丈夫か!?

…………っ

思い切り転んでしまった。

膝をすりむいちゃったみたいで痛い。
泣きそうになって必死に止めるも、やっぱりどうしてもこぼれてしまう。

私、お荷物だな…………

トロー

大丈夫か?

…………っ

トロー

簡単な応急処置しか今はできないけど、我慢してくれ

トロー

アサガケって傷薬だ。ちょっと染みるけど辛抱してくれよ

………っ

トロー

よし、じゃあ俺の肩に掴まれ

……?

…………ぁっ

トロー

高いだろう?

高い。
凄く高い。

でも、それ以上に温かい。

トローの背中が、温かい。
雪から足が離れただけで、感覚が少し戻った気がした。

トロー

待たせたなグルー。行こう

グルー

別に待ってないさ

………

トロー

本当に雪がないな……

グルー

確かにな。それに、まだ冬の初めとはいえ山頂に比べるとまだ温かい

トロー

とりあえず、この辺で宿を探すか?

グルー

そうするか……

……?

ふと、遠くに変なものが見えた。

緑と小麦色ばかりの風景の中に、赤や白が混ざっている。

トローの肩を叩いて知らせると、彼もすぐに反応した。

トロー

おい、あれって………

グルー

サーカス小屋……だよな?

………?

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