トロー

この辺でサーカスなんて聞いたことあるか? 俺は初めて見たんだが

グルー

ない、な。俺も実際に見るのは初めてだ

…………?

大きい。

昨日泊まった小屋も大きかった気がするけど、これはそれとは比べ物にならない。



赤に白に青に……目が痛いくらいの派手な三角のテントが風にびくともせずに立っている。

トロー

これ、中に入れるかな?

グルー

なんで?

トロー

この子が興味持ったみたいだからさ

…………

グルー

……まぁいいだろう。急ぎの旅じゃないしな

…………?

カシア

…………

…………?

カシア

お客さんだあああああああああああああ!!

グルー

えっ?

カシア

いらっしゃいませ、3名様ですね?

トロー

はい、そうです

グルー

待て待てまだ入ると決めたわけじゃ……

トロー

さっきいいだろうって言っただろう?

グルー

そうだが……もう少し考えるってことをだな…………

コラーー!!!!

グルー

……また何か来たぞ?

カシア

いけない、バレちゃった……

シャリテ

もう、カシア! 勝手に出歩くなって何度も言ってるでしょう! それと、お客さんに向かって叫ぶの禁止! 聞こえてるんだからね僕耳がいいから!!

カシア

ちぇー、ごめんなさーい

シャリテ

もうちょっと素直に反省してくれていいんじゃないの? ステラはこんなに大変じゃなかったのに……いや、あの娘は特別だったしなぁ…………

カシア

ねぇーシャリテェー

シャリテ

はいはいはい、どうしたの?

カシア

一人でブツブツ言ってるの、怖い

トロー

まぁ、その姿じゃなぁ……

シャリテ

あぁ~子供たちが辛辣すぎる~~!!

…………

シャリテ

……どうかしたのかな?

トロー

多分、ピエロを初めて見たから興味持ったんだろ

シャリテ

それはそれは! 僕は子供は大好きだよ~! よろしければ、頭を触らせてもらっていいかな?

グルー

初対面の女の子の頭を触ると嫌われるって聞いたことあるぞ

シャリテ

ももも勿論嫌なら全然かまわないよ! あくまで挨拶として、ね!

トロー

構わないか?

…………

グルーやトローにもしてもらったことあるし、頭撫でられるのは好きだ。


トローの肩から降りて、すっと頭を差し出す。

シャリテ

ふふふっ、素直でいい娘ですね。ではーーーーー

頭の中を闇が覆った。


目を閉じていた時よりも濃厚な闇で何も見えない。

私は闇だった。
自分という概念をまだ持ってなかった、持つ直前といった状態か。

突然、遠くの方で声がした。

うすい壁を隔てているような、ぼんやりした感覚が頭の中にこだまする。

………これは確実に、世界を変える発明だ

見よ、私達はまた一歩神に近づいた。人は生を待つだけではなく、描くことに成功したのだ

さあ喜ぶがいい。彼女こそ、君達が待ちに待った――――

…………っ!

急に現実に引き戻された。
体の震えが止まらない。


まるで、雪山に捨てられた時のようだ。
頭の中の声が耳にこびりついている。

視線を上げると、ピエロの人が手を放していた。

もしかしたら、それで現実に戻ったのかもしれない。
自分の手を見て呆然としていた。

シャリテ

…………

シャリテ

そうか、君が……

グルー

…………あの?

シャリテ

失礼を致しました。改めて、小屋の中へご案内致します

トロー

本当ですか!?

カシア

シャリテなんか気持ち悪ーい

…………っ

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