トロー

あの娘、これからどうなるのかな

グルー

そうだな……引き取り手が見つかるまで宿においてもらうとか……か?

私としては子供は好きなので構いませんけど……

グルー

……けど、そうしたくないんだろ?

トロー

いや……別にそういうわけじゃ………

グルー

今更ごまかすな。お前の考えることくらいお見通しだよ

トロー

だが、金の方は……

グルー

まだまだ余裕ある。やりくりも俺がしてるんだ。お前がくよくよする必要ない

トロー

…………すまねえな、グルー

グルー

気にするな、それこそ今更だろ

グルー

ということで、先に3人分のお金を払いたいんだけど……

あ、2人分で大丈夫ですよ

グルー

えっ?でも……

当ロッジは、お子様は初回に限り無料にさせて頂いてるんです♪

グルー

……ありがとう

いえいえ。あんな小さい娘が雪山に置いてけぼりなんて可哀そうすぎますもん。どうか優しくしてあげて下さいね

トロー

ああ、もちろんだ

トロー

というわけで、俺達と一緒に来ないか?

…………?

首をかしげる。

どこに行くのだろう。
知らない場所だろうか。
きっとそうだ。


目の前の2人はとても温かい眼をしている。
あの時の「眼」のように、私を気味悪がって捨てたりはしないだろう。
なんとなく、確証はないけど信じられる。


だったら、2人についていきたい。
きっと、2人なら信じることができる。

信じるということすら、今の私にはよく分からないけど
なぜだか、2人の前なら「安心」できるのだ。

…………

トロー

本当か!!

グルー

これからよろしくな。俺はグルー。こっちのアホはトローだ

トロー

誰がアホだバカグルー!

…………

…ォ……、ゥゥ………?

グルー

……?

…………

どうしてだろう。

うまく声が出せない。
口は動かせるのに、他のところがついてこれてないみたいだ。

自分でもびっくりするくらいかすれた声しか出なくてショックを受ける。

トロー

グルー、今この娘俺達の名前呼んだぞ!

グルー

えっ?そうなのか?

……!

トロー

多分だけど

グルー

ただの勘かよバカトロー!!

トロー

いや、でも確かに俺達を呼ぼうとしてたぞ

グルー

それは……まぁ…………

…………

やっぱり、かすれた声しか出ない。

口と頭が先行して置いてけぼりを食らってしまっているみたいだ。


どうしよう。
せめて、名前くらいは言えるようになりたい。


どうしたら声がちゃんと出せるように……

グルー

……そう焦るな

……?

頭に、誰かの温もりを感じる。

グルーが、私を撫でてくれていた。
トローよりもちょっとだけ乱暴だが、それでも同じくらい温かさを感じる。

優しく撫でてくれてくれる。

グルー

目が覚めたばかりなんだ、そう急がなくたっていいさ

トロー

そうそう。これからはずっと一緒だしな

「ずっと一緒」



たったそれだけの、初めて聞く言葉なのに、どうしてかとっても安心できた。

涙がこぼれるのを頑張って我慢する。
代わりに、思い切り目の前のグルーに抱きついた。

グルー

うおっ!!

トロー

大丈夫か?

グルー

あ、ああ…………

………っ

温かい。

それに、どういうわけかとても落ち着く。


どうして抱きついてるだけでこんなに安心できるのだろう。

ホッとしたら我慢してた涙腺が緩んでしまった。


震え出した体を、優しく包み込んでくれた。

グルー

……こういうのは、トローの方が適任だろ

トロー

なら、代わろうか?

グルー

…………いや、いい

…………っ

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