――2年前――

……どうやら、この辺りにはいなさそうだな

連中がやってくる前に逃げないと……西に行けば確か大きな山が

そこで何をしている?

えっ――――

うっ……

竹内 秀政

貴様、鬼の子供か!

………っ

殺される
咄嗟にそう思った。


人間は刀に手を伸ばし、今にも抜刀しようと構えている。


逃げようにも、腰が抜けて動けそうにない。

目をギュッとつぶったその時――――

松尾 弾正

何をしている

竹内 秀政

と、殿!!

現れたのは、立派な鎧を纏った男だった。
ギラリと光る眼光が、この男が並々ならぬ――将軍と呼ばれる、人間の司令官だろうということを教えた。


そして、矢のように鋭い視線が、柳の方を向く。

松尾 弾正

…………

…………

松尾 弾正

……鬼の子供、か

そう呟くと、男はそのまま馬ごと背を向ける。

竹内 秀政

殿!?

松尾 弾正

城に戻る。その者を連れて参れ

竹内 秀政

殿ぉ!?

…………?

松尾 弾正

貴様、名は何という?

…………っ

松尾 弾正

つまらぬ些事で首を落としたくないだろう

…………柳

松尾 弾正

ふん、柳か。貴様は何故あの場にいた?貴様のような幼い妖怪は既に逃げおおせたと思っていたが

松尾 弾正

隠れていただけか……それとも、誰かに会おうとしていたか

…………っ

松尾 弾正

ならば、その「誰か」も我々が討っていたとしたらどうする?

えっ…………

松尾 弾正

どうかは知らん。貴様の知己の顔など我々が知るはずが無かろう

松尾 弾正

だが、此度の戦で討たれた鬼は100はくだらないと聞いている。女子供も含めてな

そん……な…………

松尾 弾正

非情などという戯れ言は吐くな。これは戦だ。非情という言葉を大義名分が補う場なのだ

何が戦だ……そんなの虐殺と同じじゃないか……

松尾 弾正

そして、それを伝えた上で貴様に問おう

…………!

松尾 弾正

同族の鬼を含め、多くの妖怪が死んだ。貴様の知己もその中に含まれておるやもしれぬ

松尾 弾正

貴様の知己が何人生き残っておるかも分からぬ

…………

松尾 弾正

貴様はそれを聞いてどうする。絶望し、全てに目を背けて友の元に向かうか。ならばその刀で腹を斬るがいい

松尾 弾正

それとも、目の前に立つ敵に一泡吹かせるか、絶望しながらも這って生き延びるか。ならばその刀の切っ先は違う所に向かおう

…………っ

松尾 弾正

刀を抜いて見せろ、小童!!

…………っ!

うあああああぁぁぁぁ!!

ぐっ…………!

松尾 弾正

簡単に斬れると思ったか!貴様の敵は腕の力だけで斬れるほど安い相手ではないぞ!!

松尾 弾正

どうした小童!!貴様の気概を見せてみろ!!

…………っ

おおおおおぉぉぉぉ!!

ぐあっ…………っ

松尾 弾正

どうした!もう終わりか!!

くっ…………!

ああああぁぁぁぁぁ!!

はあっ……はあっ…………!!

竹内 秀政

殿、いつまで続けるおつもりですか

竹内 秀政

もう15回もこやつの刀を弾いてばかりで。鬼とはいえここまでやれば上等ではありませぬか?

…………っ

松尾 弾正

……部屋を用意してやれ

竹内 秀政

首はよろしいので?

松尾 弾正

這ってでも生きると、こいつ自身が決めたのだ

…………っ!!

竹内 秀政

泣くな。刀握りながら泣くんじゃねぇ。刀に失礼だろうが

竹内 秀政

泣くなら、せめて部屋でしろ。立て

…………!

竹内 秀政

ただの鬼だと思ってたが、なかなか気骨を持ってるじゃねえか

そして、2年が経った――――

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