松尾 久道

竹内よ、少しいいか

竹内 秀政

これは久道様。いかがなされた?

松尾 久道

父の姿を見なかったか?先程から探しておるのだが

竹内 秀政

殿を、ですか。……では、柳の姿は見かけましたか?

松尾 久道

………何故あの人でなしを

竹内 秀政

あの方のことです、今日も「遊んで」おられるのでしょう

松尾 久道

……父は、アレに何か価値を見出しているのか。あんな人ではない、討つべき鬼なぞに

竹内 秀政

殿のお考えは、我々にはとても及ぶところではありませぬ。久道様がご自分で考え、捉えるとよろしいかと

松尾 久道

……考えるだけ無駄か

はあっ……はあっ…………!

松尾 弾正

どうした!もう終わりか!!

松尾 久道

父よ、お時間よろしいですか

松尾 弾正

……久道か

…………

松尾 久道

……何を見ている

いえ……申し訳ありません

松尾 弾正

何の用だ久道。急ぎの用か

松尾 久道

いえ、そういうわけでは

松尾 弾正

なら水を差すな。折角の「遊び」を邪魔しおって

松尾 久道

遊び……ですか。こんな汚らわしい鬼の相手などより父にふさわしい遊びがありましょうに

松尾 弾正

何をして遊ぶのも、捕虜を使って何をするかも、お前に口を出される筋合いはない

竹内 秀政

お二人方その辺で。久道様は先ほどから言葉が過ぎまするぞ。慎まれよ

松尾 久道

私は松尾の家名が堕ちるのが嫌なだけだ!!

松尾 弾正

そんなものはお前が気にするものではない

松尾 弾正

蘭、柳を部屋へ連れていけ

竹内 蘭

承知いたしました

松尾 弾正

柳よ、明日も同じ時間だ

……はい

竹内 秀政

……二年もこうした遊びを続けられて。お付きすら用意して。殿は、あの者をどうなさるおつもりで?

松尾 弾正

自分の娘にふさわしからぬ役目と思うか?

竹内 秀政

滅相もない。我ら竹内家、主たる松尾家に尽くすことこそが何よりの誉れと心得ております。殿の命に不満など抱くはずがありません

松尾 久道

秀政、そなたの忠義は非常に信頼している。これからも我が松尾家のために粉骨砕身働いてくれ

竹内 秀政

ははっ!

松尾 弾正

…………

竹内 蘭

今日も、盛大にやられてしまわれましたね

……これでもだいぶ少なくなったさ

竹内 蘭

痛くない倒れ方でも習得されましたか

…………

竹内 蘭

殿が……弾正様が貴方を鍛えて何をされるおつもりなのか、それは私の知り及ぶところではありません。貴方の世話をしろと命じられれば従うまでです

…………

竹内 蘭

…………

竹内 蘭

……そう、初対面の貴方に言ったのよね、私

そうだったね

竹内 蘭

いつの間にか、こうやって打ち解けてしまったのよね

竹内 蘭

まぁ人前ではできないんだけど。父上や弾正様はともかく、久道様は貴方を相当嫌っているし

文句はないさ。弾正様には生きることを認めて頂けたし、秀政殿にも陰ながら色々助けてもらっている。勿論、其方にも

竹内 蘭

まぁ、父上がああいう人だったのもあるし、私も貴方が鬼だからということにはあまり興味がないの。命だから従っていたのもあるけれど、今は楽しんでるの

竹内 蘭

でも、理解ができないわ。弾正様も弾正様だけど、どうして貴方はあんな無茶な稽古を2年も文句もなく続けているのかしら。勿論、捕虜だから拒否権がないというのもあると思うけど

そうだね、確かに捕虜だからっていうのもあるよ。けど、僕ももっと強くなりたいんだ

もういないかもしれない友達の分まで、この戦乱の世を生き抜くために

竹内 蘭

……とても、辛いでしょうね

もう鬼の群れには戻れないよ。人間に捕まった後だ、間者じゃないかと疑われて居場所なんてどこにもない。だったら、まだここにいた方が気持ちは楽なんだ

まぁ、ここでも居場所なんて無いに等しいんだけど

竹内 蘭

…………

竹内 蘭

……私は、お傍にいます。弾正様の命ですから

…………!

……ありがとう

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