此度も快勝したそうだな、覚

快勝って程でもねぇよ。向こうが勝手にすっ転んだだけだ

轟鬼

すっ転ばせた、の間違いだろう?

ほう、どんな策を用いたのだ?

簡単だよ。物見の妖怪から人間が騎馬で攻め込んでくるって聞いたから、子供たちを使って山道に大量の小さい穴を掘ってもらったのさ。馬が思わず体勢を崩すくらいの深さのな

おかげで、騎馬隊は横転し、敵方に少なからず損害を与えたと。なるほど、策というより……

轟鬼

小細工でしかないのぉ

小細工上等。俺はアンタらに軍師として働けって言われたからこうして動いてんだ。軍師ってのはあらゆる手段を使って最小限で戦に勝つ者だろ?文句を言われる筋合いはないぜ

……目の前に「あらゆる手段」が飼い殺しにあっているのは気づいているか?

轟鬼

おい、抑えろ。こいつはまだ有用だ

轟鬼

覚よ、お主の実力は認めておる。だが、儂とて鬼だ。あまりないがしろにしてくれるなよ

同族を、ってか。安心しなよ、出し際は誤らないからさ

戦が始まって2年余り、こっちの食糧まだまだ余裕あるし、人間たちは所詮近隣国の寄せ集め。俺達が粘れば粘るほど連中は焦って自滅していくはずさ

既に2年も経っているというのに、侵攻の手が緩まぬのはどう説明するつもりだ?

連中がまだ諦めてないってだけだろ。時期じゃないってだけさ、反撃する、な

轟鬼

…………

……もういいか?今日はもう攻めてこないし。捕まえた連中は天狗達に渡しとけよ。俺はもう休む

轟鬼

…………よく、我慢したな

…………ッッ!!

轟鬼

先も言ったが、奴はまだ殺るなよ。悔しいが、奴の頭に頼らねばならないのも事実だ

鬼の真髄は欲望のままに暴を振るうことのはず!なのに、いつまでお預けを食らっていれば良いのだ!!

轟鬼

そう思っているのは手前だけじゃねえさ。他の連中も同様だ。だが、戦ってのは欲望だけじゃ覆せねえ

轟鬼

まあ、もう少し気を長く保とうや。待てば待つだけ食らう血肉も旨いってものよ

楓、帰ったぞ

覚様

お勤めご苦労様です

戦はどうでしたか?

なんとかなったさ。それよりも、鬼達の相手する方が骨が折れらぁ

その「鬼達」には楓は含まれておりますまいな!?

何当然のこと言ってんだ阿呆

覚様、私の初陣はいつになりましょうか?

えっ?

私はいつでも構いません!前線に出て、早く覚様のお役に立ちたいです!

……あー、そう遠くはないと思うぞ。入用になったら連絡すっから、鍛錬は怠らないでくれよ

はい。お声がかかるのを心待ちにしてます

…………

よろしいですか、覚様

ああ。楓の事か?

察しが良くて助かります。サトリのお力でも使われましたか?

馬鹿、こんな力普段から使ってたら頭痛が治まらねぇよ。お前が俺に用があるとしたら、楓の事しかねぇって考えただけだ

……あの娘の初陣はいつになりそうですか

そう遠くないって楓の前でも言っただろ。返答は変わらねぇよ

あなたは、軍師として鬼達の傍で動くようになってから変わってしまわれた。今のあなたほど裏の感情が読みにくくはなかった

……せめて、私達の前では本音を吐露してもよろしいのでは?ここには覚様を慕うものしかおりませぬ

殺気ばってる鬼どもと毎日顔を合わせてるせいで疲れてるんだ。それくらい察してくれ

あなたは……楓に前線に出てほしいのですか

楓に刀を渡した時も今も、あなたは彼女も鬼として戦の駒としか見えなくなっておられる。楓を連れてきた年前のあなたはどこに行ってしまわれた!

彼女を娘のように見守っていた覚様は、どこに消えてしまわれたのだ!!

疲れてるって言ってんだろ!そんな昔のこと覚えてねぇよ!!

覚様!!

…………お前もサトリだったら良かったのになぁ

俺の腹の中、素直に見せてやれたのに

……は?

っ……もういい!俺は寝る!

覚様…………

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