放課後を告げるチャイムが鳴り響き、小学校を出た男児と女児が連れ立って歩いていた。
女児は熱心な様子で少年に語っている。
放課後を告げるチャイムが鳴り響き、小学校を出た男児と女児が連れ立って歩いていた。
女児は熱心な様子で少年に語っている。
でね、アキ君。『Fratello(フラテッロ)』に出てくる大神銀河(おおかみぎんが)君ってのは難しい言葉を使って話す厨二病って奴で、その弟の大河(たいが)君ってのは素直になれないツンデレって呼ばれる奴なんだって
ユズちゃんそればっか話してるよ!
気弱そうな男児が困り顔になりながら女児に対応していた。
だってユズは銀河君と大河君を演じてる松原結生(ゆうせい)って人が大好きだからアキ君にも魅力をわかって欲しいんだもん!
まつばら……ゆうせい?
うん、ユズのパパが松原結作(ゆうさく)っていうから名前が似てるの!
パパを思い出すような、すっごく素敵な声なんだよ!
そうなの? 詳しく教えて
うん! アキ君は皆と違ってちゃんとユズの話を聞いてくれるから好きだよ
ユズちゃんの話って難しいから皆聞いてくれないんだよ
そうかなぁ……だから皆、ユズの事を変な子だって言うの?
それは……わかんないけど
ユズは皆にユズの好きな事を知って欲しいってだけなのに……皆そう言って離れていくんだよ……
……ユズちゃん
ユズの好きな事は変じゃないもん!
ユズちゃん、ボクは変なんて思ってないよ! 思わないよ!!
強い口調で言い切った後、男児は微笑む。
だって皆が変だって言ったって、ユズちゃんにとっては大切な事でしょう?
それならボクだって大切な事だって思うよ
アキ君……有難う
そんな男児の言葉を聞いた女児も嬉しそうに笑った。
それでも変だって言われて辛いなら、ボクも一緒に変になるから
……うん
だから……ボクの事をもっとちゃんと見て欲しいんだ。
ボクが君の世界に行けば、君の目に映してくれるのかな?
目覚ましの音が高らかに鳴り響く。
耳を塞ぎたいような気持ちになりながらも明彦は目覚ましを止めた。
……もう朝か
呟いて伸びをする。
何だか昔の夢を見ていた気がする。確か俺は……小学校高学年位までは普通だったな。
当時に比べると……大分俺も変わったな
しかし当時から変わらない事も明彦は知っていた。
でも当時から俺を変えるきっかけはユズで、そのユズがずっと隣に居るという事だけは全く変わらないな
それはきっと……この先も変わらない。
そんな予感が彼にはあった。
惚れた方が負け、か。昔の人は良くわかっている。
これから先も……俺にはユズが必要だ。そして趣味が変わらない限り、ユズにも俺が必要だろう……この程度の自惚れならきっと神様も許してくれる
そんなように明彦が考えていると……
アキー、早く
階下から元気一杯の彼女の声が聞こえた。
結月は毎朝自宅では無く、明彦の家に来て一緒に朝食を食べてから登校するのが日課であったのだ。
ああ、今行かないようにしようと思わなかったんだ
【訳:ああ、今行こうと思っていたんだ】
ああもう朝から俺は何故素直になれないんだ!?
ユズが来てくれてすっごい今嬉しいのに!
結局決めたくても決められない男……それが明彦なのであった。