咲き誇る桜の花が美しい春の日。
 星華中学校では卒業式が行われ、終わりを迎えていた。
 左側をワンサイドアップにした美少女、松原結月(まつばらゆづき)も卒業生だ。

 漸く長くて眠くなる卒業式が終わった開放感を感じながら体育館を出て、外で待っていた眼鏡の美少年の許へと向かう。

???

貴様が俺の許へと来るのは何年も前からわかっていたさ!

 厨二病臭のする痛い発言をする彼は結月の幼馴染で白峰明彦(しらみねあきひこ)という。
 付き合いが長い2人は互いを渾名で呼ぶ程度には仲が良かった。

結月

ああうん、アキと一緒に帰るのはいつやもの事だもんね。行こうか

 結月は慣れた様子で返し、さっさと歩き出す。
 その隣に明彦も並んだ。

 2人は家が隣で同い年の為、幼少期から一緒である。
 クラスは別れても学校は別れた事が無いので15年来の付き合いとなる。
 何も言わずとも自然に横に並ぶ位の関係性は当然出来上がっていた。

結月

そういえば、4月になったら初めてアキと学校別れるんだよね

 少し寂しく思いながら結月は呟く。
 幼少期から一度も離れた事が無い為、少し不安もあった。

明彦

案ずる事は無いぞ、ユズ。
離れるとはいえ同敷地内の高校だったりしないでも無いから会いに行こうと思えば幾らでも会えなかったりしない訳だし、家が隣だという事実は変わるとかそういうんじゃないから
【訳:心配することはない。
離れるとは言っても同じ敷地内の高校だから幾らでも会いに行けるし、家が隣という事実は変わらないから!】

 一見何を言っているのかわからず決まらない感じがあるが、彼の性格を良く知っている結月には正確に伝わっていた。

結月

アキ、それ何時もの天邪鬼なのはわかってるけど何言ってんのかわたし以外にはわかんないからね?

 明彦は厨二病発言に加えヘタレな部分もあり、その影響か天邪鬼やツンデレのようにもなる忙しく面倒な性格なのである。
 そんな彼に結月は続けた。

結月

後3次元でそんな風に言っても全然萌えないから!

 明彦も面倒な性格だが、結月も実は相当である。
趣味でやってる乙女ゲームの影響でオタクの性質がある彼女は現実で普通にこんな事を口にする。

 だから2人とも他に友人と呼べるような人物は大して居ないのであった。

明彦

嫌、別に狙ってないんだけど……

 明彦は思わず突っ込みを入れたくなったが、自分が突っ込むと更にややこしくなるのは知っていたので辞めておいた。
 一見面倒な彼ではあるが、思っている事自体は割と普通である。
 又明彦には他に優先事項があった。

明彦

ユズ

 突然真剣な声音になって呼び掛ける明彦に結月は少し驚く。

結月

え、何?

明彦

今日帰りにちょっと寄り道したくないんだけど、良いと思わない?
【訳:今日帰りにちょっと寄り道したいんだけど、良いかな?】

 しかしそこは明彦だ。矢張り決まらない。

結月

別に良いけど、改まってどうしたの?

明彦

それが言えるようになるのは俺達が異界に着いたその時だ
【訳:それが言えるのは俺達が場所移動してからだ】

結月

そっか、なら案内してよ、アキ

 このままここで訊いていても明彦が言う事は無いと感じた結月は彼を急かした。

 そんな彼女は未だ知らない。
 これからちょっと決まらないながらも素敵な出来事が待っていることを。

 明彦が結月を案内したのは星華中学校から徒歩20分程度で来られる星華公園である。

 昼間は小さな子供達で賑わう公園だが、現在時刻は17時。既に人気は無くなっていた。

 橙色の優しい夕日が2人を包む。

結月

ここって小さい頃良く来てた公園だよね。アキがしたい寄り道ってここの事だったんだ

 のんびりと言う結月であったが対照的に明彦の表情は強張っていた。

明彦

…………

 しかし結月は明彦の変化になどまるで気が付かないようで、のんびりと続ける。

結月

学園物の乙女ゲームだとこの辺りのタイミングでイケメンが告白してくれるとかあるんだけど、3次元じゃときめかないと思うんだよねぇ~

明彦

えっ

結月

この間の乙女ゲームはイケメン眼鏡の幼馴染が夕日に染まった人気の無い2人っきりの公園で告白して来てベタだなぁって思ったんだけど、2次元だから良いんだよね

明彦

えええっ!?

結月

そういえばその時中学校の卒業式の後って状況だったなぁ。
今までずっと幼馴染の腐れ縁だったんだけど高校で男子校と女子高に分かれるのがきっかけだった

 結月は何とは無しに思った事をそのまま口にしているのだが、明彦の表情はもう真っ青で、彼はそのまま頭を抱えた。

明彦

お願いだからもう辞めて結月さまあああぁぁぁ!!

結月

え、何?
どうしたのアキ!?

 突然叫び出し、完全に素になった明彦に結月は驚く。
 しかし明彦の顔色は青いままで妙な事を言い出した。

明彦

俺今めっちゃ恥ずかしくて冥界見そう!

結月

何時も壊れてるみたいなアキが更に壊れた!?

 流石の結月も何か言わなければ不味い気がして口を開こうとするが、慌てたせいで逆に考えが纏まらない。

明彦

ええいこうなったらもう自棄だ!

結月

ええ、アキ!?

 何かを決意した明彦に結月は突然両手を取られて固まる。
 心臓の音が煩く聴こえた。

明彦

貴様が望むと言うのであれば、俺の物にしてやろ……あげます

結月

え?

明彦

ああもうだから、その……

 明彦は頬を赤く染め、どうにか伝えようと続ける。

明彦

御前が良いって言うなら俺の彼女にしてや……じゃない。ええっと……

結月

ん……何?

明彦

これから高校も別れてちょっとだけ離れる事になるし……だから、その……

結月

ええーっと?

明彦

これをきっかけに関係を変えたいとか……べ、別にずっと前から好きだったとか付き合って欲しいとかそんなんじゃないからなっ。
で、でも御前がどうしてもって言うならっ……ああもう上手くいかないっ

 明彦はそのまま落ち込むが、彼の言葉の意味を正確に理解した結月は真っ赤になった。

結月

え……え……!? あ、アキ、それ……本気、だよね?

 確かめなくても彼女はこの幼馴染は天邪鬼やツンデレもある変人だが嘘が吐けない事は良く知っている。
 そんな彼女の反応に驚いたのは明彦の方であったが、ツンデレ発言になりながらもしっかりと肯定した。

明彦

そ、そんなの言わなくてもわかってるだろっ!

結月

そうだよね、うん。あ、あのねアキ……

明彦

う、うん?

結月

わたしもずっとアキの事、好きだったんだ。
だからその……よ、宜しくお願いしますっ!

 言いながら結月は明彦の両手を握り返した。

明彦

~~~っ

 明彦は色々な感情が込み上げてきて思わず絶句する。

結月

あ、アキ、聞いてる?

 少し不安そうな結月の声と表情。
 それを見て彼が内心で思った事は……。

明彦

可愛い過ぎかっ

 そうして応える代わりに明彦は……力強く結月の手を握った。

 この後落ち着いて来た明彦は勢いで握った結月の手の感触に気付き……

明彦

うわあああっ

 そう真っ赤になりながら情けない悲鳴を上げ、慌てて離したのは別の話である。

結月

えっ

明彦

ご、ごめん、慣れないとかそんなんじゃないからな!

0 幼馴染と面倒な告白(修正完了)

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