その様子をオレたちは見ていた。
助けるつもりはなかった。
きっと勇者もそれを望んでいない。
その様子をオレたちは見ていた。
助けるつもりはなかった。
きっと勇者もそれを望んでいない。
罪の代償ってやつか
勇者のしたことと言えば他の人間の代わりに手を穢しただけ……そうは言っても罪です
魔物たちから見れば、勇者の存在が罪になる
そうなりますね。人外時間の時。彼は、自分が勇者であると宣言し続けていた。本人としては、勇者である自分は皆から称えられるだろうって思っていたのかもしれませんね。だけど違っていた。この場にいたのは勇者を称える者ではなく、憎む魔物でした
白猫の少年はこの状況を顔色一つ変えず、見つめている。
状況を確認しても、嫌なものを見せられた気分で、オレは反射的に目を反らしてしまった。
勇者だったものはただの砂と化していく。
ああ、もう形がなくなっている
白猫の少年は笑っていた。
哀れだな、同情はしないが
同感ですね。わざわざ、自分が勇者ですって宣言したんだ。魔物たちに、殺してくださいって首を差し出しているようなもの。自業自得ってやつですね
横目で見る少年からはゾッとするような冷たい笑いが浮かんでいる。
その横顔に、オレは言葉をかける。
外見は個人情報になる。つまり、お前が白猫であることは黙っていろ………ってことか
はい。別に困ることはありませんが、お願いしますね。貴方の姿が幻獣であることも黙っておきましょう
……お前は幻獣とオオカミの区別もつかないのか?
幻獣の姿なんて初めて見ます。幻獣だったのですか? それとも身近な誰かが幻獣だったのですか? どちらにしても興味深いです
笑いながら詮索を始める少年を半眼で睨む。
どうやら、オレの人外時の姿に興味があるのだろう。
教えてやる必要はなかった。
それは、教えてやらない。
だが………
オレはデュークだ
?
名乗った方が良いだろう。それと、ラシェルって子供に会ったら伝えてくれ。オレが来ていること
わかりました。ところでお兄さんは恐い程に無防備ですね。ボクの忠告を全然聞いていないようだ
なぜ?
ボクは貴方の姿と名前と、大事な子の名前を知りました。もしもボクがお兄さんの敵ならば、知られたくはないこと………なのでは?
知りたそうに詮索をしておいて心配をするなんて、彼はそんなに悪い奴ではないのかもしれない。
お前だって【黒猫を探している】と言っていただろ。同じことだと思うが
名乗ってもいませんし、探している相手の名前も告げていません
………お前はオレの敵かもしれないが、ラシェルに害を与える者ではない……だから教える
なぜ、わかるのですか?
なぜだろうな。オレにはわかるんだろうな
曖昧な言い方しますね。でも気に入りました。ラシェルさんと再会できるように僕も応援します。それではボクはいきますね。
ありがとう
名前を教えるつもりはなかった。
だが、
ラシェルがここにいるかもわからない。
ラシェルはオレがここにいることも知らない。
もしも、いなければ別の方法で探せばいい……
ここにいるのであれば彼女は自分の名を名乗るだろう。
彼女は名前を隠そうとはしないから。
白猫が彼女を知らなくても、彼女から名乗ってしまう。
彼女が名乗れば、白猫はオレの存在を彼女に告げる。
オレの存在を知れば、彼女はオレを探す。
きっと、大声で……
その後は、どうなるだろうか……
そこまでは考えない。
これからの行動を考える。
まずは、時計職人とやらに会うとするか。
魔物たちは勇者の塊を踏みつけている。
(そういえば……)
ふと、振り返る。魔物たちの中に……勇者を殺した魔物の姿はなかった気がする。
視線の端には魔物が転がっていた。
人間時間だというのに彼らは人外の魔物の姿。
動くことなく、無言でそこに転がっている。 彼らの姿は低級の魔物。
どこにでもいる、ありふれた外見だけど……彼らなのだと、直感で思ってしまう。
ああ、彼らは死んだのだよ
!
突然、声をかけられたので目を見張る。
気配はなかったはずだ。
男が立っていた。洒落た皺ひとつないスーツ、貴族のような風貌の男。
だけど胡散臭さを漂わせている。他とは明らかに違う空気にオレは警戒を覚える。
一瞬だけ魔法の気配を感じたが、この男からだったのだろうか。
だけど、今は魔法の気配は一切感じられない。
オレたちをここに連れて来た誰かが何かを仕掛けたのか。
それにしては、勇者だったものと、魔物の死骸が転がる以外……何の変化もない。
哀れむように魔物の死骸を見ていた彼の視線が、ゆっくりとオレに向けられた。
私は時計職人のアークだ
……時計職人?
私を捜していたのでしょう? 白猫あたりに言われて
全て御見通しってことか。なぜ、彼らは魔物の姿になっている? 今は人間時間のはずなのに
それは、ルールを破ったからさ
ルール?
何を言われているのか分からなかった。
目を瞬かせていると、アークはやんわりとした笑みを浮かべて、
後で説明します。君を探していたところなのですよ。実は迷子を預かっていまして……………って
空気が一変し、疾風怒濤の走りで彼女が走ってくる。
今は人間時間だ。
薄紫色がかった灰色の髪が猫の毛みたいにフワフワしていた。
それを両サイドに縛って、それが猫の耳みたいにピョンピョンと飛び跳ねている。
前に市場に行ったときに一目惚れしたというサーキュラーワンピースに、ぶかぶかのポンチョ。ショートブーツで走りづらそうに、だけど全速力で突進してくる。
デュークだぁぁぁぁ
残念ながらオレには突進してくる人間を受け止めるという能力は備わっていなかった。
!!!!!
そのまま背中から倒れて、飛びかかって来た彼女を睨み上げると、彼女は悪びれたようすもなく、嬉しそうに笑う。
会いたかったよぉ
こら、奥で待っていなさいって言ったでしょう
アークがそう言うと、彼女――ラシェルは渋々離れる。
先ほどまでの、胡散臭い男の気配はどこにもなかった。
だって、デュークの匂いがしたんだもの
だからって、無暗に動いて、危ないことになっては……彼が悲しみますって………
………………………………………………すまない
どうしたものかと考えてからオレは頭を下げる。ラシェルの保護者は自分なのだから。
いえ
なぜかアークに意味深に笑われた。やっぱり胡散臭いと思った。
アークに謝罪の言葉を告げてから、今度はラシェルの前に立つ。
…………ラシェル
デューク!!!!!
心底嬉しそうなラシェルの頭を撫でると、更に目を輝かせて笑顔になる。
そして、その良く見える額に向けて、
デコピンを喰らわせた。
いったぁぁぁぁい!! 痛いよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
予想外だったのだろう。
彼女は涙目で睨み上げるが無視。
改めてアークを見やると、何だか微笑ましいものを見ているかのように笑っていた。気に入らないと思いつつ、ラシェルの頭を小突いた。
迷惑をかけるな………アークさんに謝りなさい。
アークさん、ごめんなさい
ラシェルが素直に頭を下げるとニコリとアークは微笑み返す。
いいえ。会いたい人に会えて、よかったですね。
うん
ラシェルがアークと出会っていて良かったと思う。
もしも一人だったら……他の誰かと一緒だったら、こんなに早く再会することなんて出来なかっただろう。
再度ラシェルを見ると、申し訳なさそうな彼女の視線とぶつかった。
正直、焦った
むぅ、ごめんなさい
だが、目的地には着いていたようだな。それは褒めてやる
ここって、依頼主さんの家なの?
目的地にたどり着いたことを褒めてやったのに不思議そうなラシェルの表情。
もしかすると、いや、もしかしなくてもラシェルは道に迷ってここに辿り着いたのではないだろうか。
……………
…………………
謎の沈黙のあと、ぎこちない笑顔で、
…………知ってたよ
って言われても信用できない。
嘘つくな………とりあえず、ここは不気味だ。帰るぞ
そう言って歩き出そうとしたが、背中で妙に冷めた声でラシェルが言う。
出来ないのよ
え?
帰れないんだって
どうして?
帰る方法はある、そう思っていた。
実はね……
話し始めようとするラシェルは無視、説明を求めようと視線をアークに向ける。
では、説明しますね。デュークさんは、この屋敷について知りたかったのでしょうし。
ああ、すまない
え。私は聞いているよ。私が説明すれば良いじゃん
内容を覚えているのですか?
忘れた
なぜそこで良い返事をするのかわからない。
オレとアークは視線を絡ませて、同時にため息をついた。