皆様、こんにちは。作者の古都助です。
無事めでたく!! 
ストリエ・サイト様が継続なさる
という事で、当方の連載作品も晴れ晴れとした気持ちで連載再スタートとなります。(*´ω`*)
これからもどうか、よろしくお願いいたします!!

ユキ

~♪

セレスフィーナ

ふふ、着々と素敵な贈り物が出来てきましたね~。

 ウォルヴァンシア王宮。
 その中にある王宮医務室にて。
 別世界から帰還した小さな王兄姫殿下ことユキは、上機嫌な鼻歌と共にプレゼント作りに励んでいる。
 折り紙で作られた花や、輪っかにして繋げたカラフルな首飾り。王宮の庭師に頼んで分けて貰った花を集めて作った花束。手作りの絵、などなど。
 どうやらまだまだ増える予定らしい。

ユキ

うん!いっぱい作ったよ~!!ルイおにいちゃん喜んでくれるかな~?

セレスフィーナ

勿論ですわ!!ユキ姫様が心を込めて作って下さったんですもの!!

セレスフィーナ

瞬殺間違いなし!!ですわ!!

『良いお兄さんの日』とやらの恩恵を受け、このプレゼントの山(予定)を贈られる、セレスフィーナの双子の弟、ルイヴェル。
 彼がこれを見たら、お気に入りの幼子から『良いお兄さんの日』を祝われば、確かに喜びのあまり瞬殺同然でぶっ倒れてしまうかもしれない。

ユキ

ほんと~?わぁ~い!しゅんさつしゅんさつ~♪

 だがしかし、幼子相手に『瞬殺』などという物騒な単語を覚えさせてしまうのは如何なものか……。
 生憎と、今の王宮医務室にツッコミは不在だ。

ユキ

……でも、ルイおにいちゃん、今日中に帰って来れるかなぁ。

セレスフィーナ

……。

 扉の方を向き、寂しそうに俯いてしまった小さな王兄姫殿下。
 セレスフィーナはこっそりと奥の部屋に駆け込み、通信用の魔術道具(ピアス)を発動させた。

魔術師団員

おい!!さっさと弱らせてこっちにまわせよ!!

魔術師団員

無茶言うなぁあっ!!数も多い上に、滅茶苦茶凶暴になってるんだぞ~!!

魔術師団員

あっちの陣に追い込め!!そうすれば何とかなる!!多分!!

魔術師団員

多分とか不安要素叫ぶんじゃありませんよぉおおおおおおおっ!!

ルイヴェル

……訓練も兼ねて新入団員達を連れて来てみたが、やはりこうなったか。

 ウォルヴァンシア魔術師団の任務として赴いた国内の片隅。山から次々と暴れ狂って突進してくる魔獣達を相手に、苦戦を強いられている新入団員達。
 去年の新入団員達が楽々とこなせていたレベルの任務を思い出すと、雲泥の差だ。
 魔術師団の団長職を預かっているルイヴェルは黒衣の団長服に身を包み、岩場に腰かけながらその惨状を眺めている。

魔術師団員

ぎゃあああ!!だ、団長~!!え、援護を~!!

魔術師団員

こんなのっ、マジで死にますってえええええ!!

ルイヴェル

安心しろ。その程度で死ぬのは、魔術師団の訓練をサボり、怠惰に給料だけを貰っている馬鹿共だけだ。

 離れていても自分の声を広範囲に届けられる魔術を発動させ、ルイヴェルは冷酷無比な宣告を突きつける。この任務に連れて来た新入団員……、その、一部。それは、魔術師団の中でも成績や素行の悪い、所謂問題児の類を集めた集団だった。
 そんな彼らの根性を鍛えなおす為、ルイヴェルは大魔王の所業で恐ろしい戦場の中へと問題児達を放り込んだ。
 

グォオオオオオオ!!

グォオオオオオオオッ!!

魔術師団員

いいいいいやぁああああああああっ!!

魔術師団員

ひいいいいいい!!だ、団長ぉおおおおお!!何の嫌がらせなんですかああああ!!

ルイヴェル

仕置きだ。せいぜい死なない程度にそいつらに可愛がって貰え。

 今回のような酷い目に遭っても魔術師団に残るのであれば、まぁ、少しは鍛え直しが期待出来るというものだろう。新入団員の中には、高額の給料目当てに入ってくる、貴族の馬鹿息子も多い。
 そういう不用な団員を振るい落とす為に、こういう討伐任務は丁度良い。

ルイヴェル

出来る事なら、入団テストで排除しておきたいところなんだがな……。

 ウォルヴァンシア魔術師団の入団テストは、決して甘くはない。だが……、そのテストに合格する能力がありながら、受かった時点で堕落する者が出る事もあり……。そういう輩の今後をしっかりと導く為に、ルイヴェル達高位の魔術師達は心を鬼にして。
 

高位の魔術師

いやぁ、来週には何人脱退届を出してきますかねぇ。

高位の魔術師

私の目から見ると……、今参加している新入団員全員じゃないですかね。全然根性なさそうですし。

高位の魔術師

ふふ、何人かは根性を見せてほしいのだけど。

 問題児達の阿鼻叫喚地獄絵図をのほほんと鑑賞していた!!

ルイヴェル

はぁ……。

 一応、魔術師団の団長はルイヴェルだが、高位の魔術師には彼よりも年上の者達が多い。
 ほのぼのと茶会仕様で問題児達の悲惨な姿を眺めてはいても、周囲に被害が及ばぬように結界の維持に努めているのだが……。
 相変わらず、この新入団員の振るいのかけ直し行事を娯楽のひとつとして捉えているところがまた何とも……。

 ルイヴェルがげんなりと溜息を吐き出していたその時。彼の耳にしているピアスに通信が入った。

ルイヴェル

どうした?セレス姉さん。

セレスフィーナ

ルイヴェル……、まだ、終わりそうにないの?

 通信の相手は、双子の姉であるセレスフィーナだ。
 彼女は少々困った様子の声音で任務の完了までの時間と、王宮へは何時頃に帰還出来るのかと尋ねてくる。

ルイヴェル

何か急用か?

セレスフィーナ

急用、というか……。その、ルイヴェル、貴方にお客様が来ているのよ。

ルイヴェル

誰だ?

セレスフィーナ

そ、それは言えないわ!!だ、だけど、貴方の事を心待ちにして下さっている大事なお客様なのよ!!

 何故その客の名前を告げないのか……。
 ルイヴェルは頭の中に?を浮かべながら息を吐く。
 魔術師団の団長である以上、何か重要事でも起こらない限りは職場放棄など出来ない。

ルイヴェル

そうは言われてもな……。問題のある団員の振るい直しと、魔獣の浄化、討伐、近隣への対処など色々と仕事があるのはセレス姉さんもわかっているだろう?少なくとも、帰りは夜に。

セレスフィーナ

駄目よ!!そんなに遅くなっちゃ、ユキ姫様がっ!!……あ。

ルイヴェル

……ユキ?俺を待っているのは、ユキなのか?

 週末休みでもないはずだが……。
 ウォルヴァンシアに戻ってくる今日の予定を聞いていなかったルイヴェルは、どういう事だと眼鏡の中心を押し上げながら尋ねる。
 

ルイヴェル

大体、何故ユキの訪問を隠す?

セレスフィーナ

そ、それは、その……。ユキ姫様なりの事情があるというか、う~ん……。でも、隠してる場合じゃないわねっ。

ルイヴェル

セレスフィーナ

ユキ姫様はね、貴方に贈り物を用意して待っていらっしゃるのよ!!そりゃあもうどっさりと!!

ルイヴェル

……今日は別に、俺の誕生日でも何でもない日だと記憶しているが?

 お気に入りの幼子が医務室で待っている。
 その事実は内心でルイヴェルを大いに喜ばせているのだが、……はて、今日は何の日だったか。

セレスフィーナ

『良いお兄さんの日』……、らしいわ。

ルイヴェル

なんだ、それは……。

セレスフィーナ

『母の日』や『父の日』と同じようなものらしいわ。で、ユキ姫様が貴方の事を喜ばせたいからって、三時間も前から待っていらっしゃるのよ!!

ルイヴェル

……三時間も、前から、だと?

セレスフィーナ

そうなのよ……。貴方が仕事から帰って来るのを待つって仰って、医務室の中、凄い事になってるわ。

 一瞬、ルイヴェルの脳裏にしゅんと寂しそうにしている幼子の姿が垣間見えた!!
『良いお兄さんの日』とやらが何なのかは知らないが、あの幼子が自分の為に贈り物を用意し、帰りを今か今かと待っている……。

ルイヴェル

――わかった。五分で片付けて帰る。

セレスフィーナ

え……。ご、五分って、それは流石に。

ルイヴェル

では、三分だ。すぐに戻るから、ユキが他に奪われないようガードしておいてくれ。

セレスフィーナ

ちょっ!!さらに滅茶苦茶な事をっ!!

 
 ルイヴェルは通信を切り岩場から飛び降りると――。

ルイヴェル

いや、一分以内で片を着けるか。

 弱すぎる新入団員(問題児達)の逃げ回る姿を一瞥し、彼は即座に行動へと移った。

ルイヴェル

ユキ、待たせて悪かったな。

ユキ

あ!!ルイおにいちゃん!!おかえりなさ~い!!

セレスフィーナ

五分、っていうか、まだ三分も経ってないような気がするのだけど……。

 大魔術をぶっぱなし、事後処理を部下に任せてきたらしきルイヴェルは、団長服のままユキを抱き上げて抱擁を交わしている。
 流石はウォルヴァンシアの王兄姫過保護隊の一人だ。……本当に、三分以内で戻ってきた。
 

ユキ

あのね、今日は『良いお兄さんの日』なの~。だから、ユキがルイおにいちゃんにいっぱい感謝の贈り物をするの♪

ルイヴェル

ほぉ……。こんなに沢山用意してくれたのか。大変だったんじゃないか?

ユキ

ううん!!セレスおねえちゃんも手伝ってくれたし、すっごく楽しかったよ!!

セレスフィーナ

ふふ、本当はルイヴェルの方がユキ姫様に感謝しまくらなきゃいけない気がするのだけど、良かったわね!!ルイヴェル!!あとで絶対レイフィード陛下に柱の陰から妬まれるわよ!!

ルイヴェル

アイツらの面倒を見て一日が終わるのかと思っていたが……、こんなサプライズがあるとはな。ユキ、礼を言うぞ。

ユキ

ふふ、どういたしましてなの~♪それとね、セレスおねえちゃんにもプレゼントがあるの!

セレスフィーナ

え!?私にも用意して下さっていたのですか!?

ユキ

うん!!『良いお兄さんの日』があるなら、『良いお姉さんの日』もあるかな~と思って。内緒で用意してみたの!!

セレスフィーナ

うぅ……っ。ユキ姫様~、私の事まで喜ばせてくださるなんてっ、私は、私はっ。

セレスフィーナ

ユキ姫様、本当にありがとうございます~!!

ユキ

えへへ~♪喜んでもらえて嬉しいよ~♪

ルイヴェル

俺達をこんなにも喜ばせるとは、腕を上げたな。ほら、もっと撫でてやろう。喜べ。

ユキ

えへへ~♪

 可愛い幼子からのサプライズに上機嫌MAXになった二人の王宮医師は、それから三十分間に渡ってその小さな頭を撫でまわしたのだった。

ルイヴェル

ところで、『良い兄の日』という祝祭の日についてなんだが……。

ユキ

ん~?

ルイヴェル

去年はそんな事を一言も言ってなかっただろう?向こうの世界での父の日や母の日については聞いているが……。

ユキ

うんとねぇ~、同じ組の翼君が教えてくれたんだよ~。11月23日は『良いお兄さんの日』だって。なんかね、語呂合わせのイベントだから、普通のとは違うって言ってたよ~。

セレスフィーナ

あぁ、なるほど。11(いい)23(兄さん)の日というわけなのですね。

ルイヴェル

語呂合わせか……。お前の世界では、中々に面白いイベント作りをしているんだな。……ふむ。

ユキ

だからね~。翼君は、今日は自分のおにいちゃんにいっぱい遊んで貰うんだ~って言ってたの。

セレスフィーナ

つまり、お兄さん的な存在に感謝するも良し、沢山遊んで貰うも良しな、お兄さん尽くしの一日というわけですね?

ユキ

うん!!翼君もそう言ってたよ~。

ルイヴェル

そうか……。

ルイヴェル

――で?その翼君(男)とやらとは、仲が良いのか?

ユキ

うん!!仲良しさんだよ~!!

ルイヴェル

……そうか。

セレスフィーナ

この子ったら、四歳児の男の子相手にまで……。あぁ、狭量過ぎて将来が怖いわっ。

ユキ

翼君はね~、皆の王子様なんだよ~。女の子達からもすっごく好かれててね~、小学校のおねえちゃん達からもお手紙もらうんだって~。

セレスフィーナ

も、モテモテの素敵な男の子!なんですねっ。

ユキ

うん!!モッテモテ~!!なの~。それにね、ユキにこんなお手紙もくれたんだよ~♪

セレスフィーナ

……何だか、物凄く嫌な予感。

ルイヴェル

ユキ、中身を読んでみろ……。

ユキ

は~い♪えっとね~……。

 ピンク色の封筒を開き、上機嫌の王兄姫殿下は何も考えずに便箋を開き、――読み上げた。

ユキ

ユキちゃん大好き!大きくなったら結婚しようね!!だって~。きゃっきゃっ♪

ルイヴェル

ほぉ……。ガキの分際で、求婚か。面白い奴だ。

セレスフィーナ

こらっ!!微笑ましい子供のラブレターを燃やそうとするんじゃありません!!

ルイヴェル

……ユキ、その翼君とやらには、どう返事をしたんだ?――聞かせてみろ。

ユキ

昨日貰ったばっかりだから、まだしてないよ~。

ルイヴェル

そうか。では、『ユキと結婚したかったら、ルイおにいちゃんにまず許可を取れ。話はそれからだ』と、そう言っておけ。

セレスフィーナ

だ~か~らぁぁぁあああああっ、大人げない嫉妬心を見せるんじゃありません!!

ルイヴェル

セレス姉さん……、俺はただ、ユキが悪い男に引っかからないように注意を。

セレスフィーナ

四歳児の話でしょうが!!

 頭にでっかいタンコブを作ったルイヴェルを叱りつけながら、セレスフィーナは追加で叫ぶ。
 むしろお前が子供だ!! と。
 微笑ましい子供同士のあれこれに腹を立てているようでは、この小さな王兄姫が大きくなった時にはどうなることか……。あぁ、本気で心配になってきた。

ユキ

もぐもぐ……。でもね~、ユキ、翼君のお嫁さんにはなりたくないなぁ~。

セレスフィーナ

あら……。でも、仲がよろしいのでしょう?

ユキ

うん、仲良しさんではあるんだけど……、幼稚園中の女の子達に、さっきのお手紙渡してるから……。

ユキ

翼君のお嫁さんにだけは、なりたくないかな~、って。

ルイヴェル

賢明な判断だ。

セレスフィーナ

わざとなのか……、無自覚なのか……。翼君という子の将来が激しく心配になってきたわ。

 一瞬、ユキの背後に双子の王宮医師を慄かせるようなドス黒いオーラが見えた……、ような気が。
 たとえ幼子とはいえど、やはり女は女。
 早い段階から、恋人にも夫にもしてはいけない男の将来性に気付いてしまったようだ。
 

ユキ

それにね~、お父さんが言ってたんだよ~。ユキはまだ後三百年ぐらいはお嫁に行っちゃ駄目だ、って~。

ルイヴェル

……そうだな。ユーディス殿下の仰る通りだ。むしろ、後五百年ぐらいは嫁に行かなくていいぞ。

セレスフィーナ

ユーディス殿下……。それは流石にっ。あぁ、でも、ユキ姫様を可愛がっていらっしゃるレイフィード陛下も同じ事を言いそうな気がっ。

 この異世界エリュセードにおいて、人と獣、二つの姿を持つ種の寿命は千年以上。
 どう考えても別世界での常識を無視した発言の数々だが、幼子はまったく意味をわかっていないらしい。

ユキ

ユキね~、セレスおねえちゃんやルイおにいちゃん達と、ずっとずっと一緒にいたいから、お嫁さんはまだまだ先でいいよ~♪えへへ~。

ルイヴェル

そうだな。いずれはこのウォルヴァンシアにお前が移住してくれば、万々歳だ。はっはっはっ。

 ……そして、このサラリと王兄姫殿下の引っ越しを狙っている双子の弟に、セレスフィーナは頭を抱えたくなるような心地を覚えるのだった。
 

セレスフィーナ

……まぁ、今はこれでも、いいのかしらね。

 そう、今はまだ……。
 こうやって平穏な日常の中で幸せを感じていられる、この今を、大切にしておこう。
 

『良いお兄さんの日』
fin

2-1・良いお兄さんの日

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