美咲

うーん……。
何を着ていこうかしら……。

美咲

……ワンピースで可愛らしく……?
それとも、ブラウスで少し大人な感じ?

美咲

日差しも強いから日除けの帽子も必要ね。いっそのこと日傘にしようかしら?





帰り道の繁華街、



私は歩きながら準備しなければならない物を



頭の中で列挙していった。



……お…?






美咲

でも、日傘は気取りすぎかしら?
何より、映画館では邪魔よね。

美咲

あまりお堅いイメージにならないようにしないと……。




気づくと私はいつの間にか


間木さんに気に入られように、と


考えるようになっていた。



美咲

もう、どうしたら良いの!?

……何かいい事がありましたか?

美咲

え!?




突然、客引きのホストに声をかけられる。


とても素敵な笑顔をしてましたよ。

美咲

な……な……な……



ホストの言葉に


火が噴くんじゃないか、と言うほど


顔が紅潮するのを感じ、


美咲

な…な…なんにもないです……!





と、どもりつつ、小走りでその場を去った。







美咲

うぅぅ……
いったい私はどんな顔を
していたんだろう?




想像しただけでも顔が二次火災だ。




美咲

もーヤダぁ!!!






そして、気づいた時には、



私はがむしゃらに走っていた。


















美咲

……はぁ、はぁ……。
つい…た……。





美咲

全力疾走なんて……
はぁ……何年ぶり……だろう。







私はアパートの階段の手すりに掴まり一息ついた。



後はこの階段を上って部屋に入るだけ。







美咲

……階段……かぁ……





これまで特段運動をしてきたわけではない私は、


立ちはだかる最後の壁を前に


身動きできなくなっていた。




美咲

!!!






美咲

いったたた……



すでに全身のたるんだ筋肉と節々が


悲鳴の大合唱だ。


明日の全身筋肉痛は免れないだろう。







美咲

……登ろう。





けど、たとえ明日が全身筋肉痛でも構わない。



美咲

明後日さえ……無事なら。




全身の力を振り絞り、


二階への登頂アタックを敢行する。





疲労で重たくなった体を


手すりに両手でしがみつきながら


一段一段上へと持ち上げる。





美咲

こんな姿を間木さんに見られたら、
幻滅されるかな……?



そうなったら、それはそれで気が楽だ。



身なりに気を使う必要もなくなる。


美咲

でも……。

美咲

……それはやだな……。





ふと、周りの目が気になり見渡す。






美咲

キャッ!





周りに気を取られた拍子に



階段から一段足を踏み外してしまった。


美咲

危なかった……。
……このタイミングで、
怪我なんてできないわ。




断崖絶壁への落下を免れるかのごとく、


手すりにしがみつく私。





みよ、この無様にも健気な姿を。





例えるなら、


マッキンリー山へ命がけで望む山岳隊か。













階段をよじ登りドアを開けて部屋に入ると、


私は崩れ落ちるように玄関にへたり込んだ。



ヘナヘナヘナ……






かろうじて廊下に腰を下ろせたのは奇跡に近い。


美咲

……もう、ここで寝ようかな……?



体力を使い果たした私は、このまま休むか、


身支度をするかを天秤にかける。





しかし、人としての尊厳はもはや紙のごとし。


廊下に突っ伏した体はピクリとも動かなかった。



美咲

……ほとんど化粧してないから、このまま寝ても大丈夫よね……。





まさか、ズボラな化粧が役に立つとは。



美咲

……ごめんなさい、
お父さん。
お母さん。

今日私は堕落します。

美咲

うとうと




すべてを忘れて脱力する。


次第に重くなる瞼。


ウトウトとまどろみかけたその時。






バッグの中からスマホの通知音が鳴る。





美咲

……ううん……。

美咲

……なんだろう。
もう、寝かせてよ……。




最後の力を振り絞りスマホを取り出し、


やる気なくロックを解除する。


美咲

……メッセかぁ……。
既読スルーでもいいかなぁ。





と、眠気まなこで画面を眺めていた私だが、


再び現実に引き戻され飛び起きる。



美咲

あっ!




間木

もう、お家についたかな?










--間木さんからだった。

















慣れぬ妄想




つづく

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