ゆっくりと周りを見回す。
どこにも、探しているあの人はいない。
そこをどうか、お願いします、父上!!
ダメだ。明朝、光国は処刑される。これは決定事項だ
光国はあの喬という女に誑かされていたんです!弁明の余地はあります!!
たとえそうでも、死番蝶と間違えて夢見蝶を何羽も殺しているんだぞ!室秀まで!!斬首以外に皆が納得する術はないんだ!!
それでも……っ!!
……お前の気持ちは理解できる。だが、よく考えろ。あの実直な光国が正気に戻ったとして、自分が多くの命を奪ったことを思い出したらどうなる?
…………っ!
せめて潔く死なせてやれ。それが餞だ
……でしたら、執行人を僕にやらせてください
……いいのか?
それが、友人としての餞です
ここは……?
ここは、この前の館だ
……隊長
おはよう、光国
ゆっくりと周りを見回す。
どこにも、探しているあの人はいない。
……お前はこれから罪人として処刑される。何か遺言があれば聞くぞ?
処刑
そう聞いても、思っていたほど感慨は沸かなかった。
それ以上に、彼女がいないということに対する喪失感の方が圧倒的に大きい。
喬……
ここまできて……お前の浮かぶ言葉は彼女なのか…………
もはやいうこともないと、隊長に促されて処刑場まで連れていかれる。
その中でも、私はどこかボーっとしたままだった。
処刑場は館のすぐ傍だった。
既に小瑛を含めた多くの人が集まって、私をにらみつけている。
私が何か悪いことをしたのだろうか。
愛する人を守ろうとしただけだというのに……
これより処刑を執り行う。執行人は前へ
はい
高明……
………用意はいいか
大丈夫です
…………やれ
ようやく、死ぬという実感がわいてきた。
この一閃が入れば私は問答無用で死ぬ。
ああ
上等だ。
死ねば、また喬に会える。
次こそは、誰にも渡しはしない。
室秀にも隊長にも黒点死番蝶にも……
誰にも喬を私はしない。
……行きます
瞬間、視界も頭の中も真っ白になる。
これが、死ぬということなのか。
分からないが、意識は不思議と鮮明だ。
…………!?
館の前だ。
なのに、誰もいない。
隊長も、高明も、小瑛たちもいない。
まったく静かだ。
まるで、誰もいないかのように。
…………
…………喬!!
隊長のことも、自分の処刑の事すらも、何もかも頭から吹き飛んだ。
目の前に、愛する人がいる。
ただそれだけ頭の中にあれば十分で。
気づけば、私は全力で走っていた。
喬…………
…………
ああ
夢じゃない。
この腕の中の感触は、夢であるはずがない。
また、彼女を抱きしめることができた。
それだけで、どうしようもないくらい幸せで。
ここに誓おう。
もう、決して離さない。
たとえ処刑されようと、蝶に食い散らされようと
もう二度と、彼女を、離しはしな――――