海石榴

……室秀が帰らん

高明

戻ろない……何故です?

海石榴

俺が知りたい。だが、杉林の捜索に出して今日で三日目だ

高明

杉林に何かある……と?

海石榴

そう考えるのが自然だろうな

高明

死番蝶の仕業……というわけでもなさそうですね

海石榴

そのようだ。とにかく、今日に杉林を一斉捜索する。夢見蝶の管理は他の部にしてもらおう

高明

御意に

卯紗

ありがとうございました

村長、ありがとうね!

お礼を言われるまでもないぞい!かぁーかっかっか

高明

精が出ているようだな、卯紗、琉衣

卯紗

あれ、高明さん。おはようございます

琉衣

珍しいですね、お一人なんて。普段なら光国も一緒なのに

高明

その光国なんだが、ここに来ていないか?自室に言ってもいなくてな

卯紗

んー、私は見てませんよ。琉衣は?

琉衣

そうね、私も今日は見ていないわ。というか、最近来ないわねあの男

高明

本当か?

琉衣

これでも体壊してないかって心配してるんだけどね。分からず屋は困ったもんだわ

高明

光国……どこにいるんだ?

夕陽が綺麗ですね……

光国

そうだな……

今日は非番なのもあり、自室には帰らなかった。


仮にも人を殺した後だ。
心中は穏やかではない。


それを紛らわすのも兼ねて、ひたすら喬と一緒にいた。


何があっても、私に向ける変わらない笑顔。
それが、たまらなく愛おしい。


こうして長い間一緒にいると、世界には私達しかいないような錯覚に陥る。


それでも、まったく怖がるどころか安心で満たされているのは、隣に喬がいるから。



まるで夢のようだ。
こんな幸せが、ずっと続けば――――

光国

…………ん?

……光国様?

光国

……喬、今すぐ中に入って。障子は開けるなよ

……はい

光国

……何故ここがバレたのか、考えるまでもないですが、一応教えてもらいましょうか

光国

海石榴隊長

海石榴

…………やはり、ここにいたか

高明

光国……どうして!?

海石榴

こいつが夢見蝶も室秀も斬った、ということだ

高明

光国が!?そんな馬鹿な……

海石榴

……光国、刀をおさめろ。俺達と対峙しても何の益もない

光国

……益なら確かにないさ。だが、大義名分は存在する

光国

喬を誰にも渡さない……それだけだ

海石榴

……喬?

高明

父上?

海石榴

……光国、それは大義名分でも何でもない。ただの我が儘だ

海石榴

そんな餓鬼の我が儘に室秀は殺されたのか。あれほどお前を慕っていた室秀を、お前は!!

光国

喬を守るためだ!!悪い虫に喬を奪われないためにな!!

高明

光国……!?

海石榴

高明、あれはもうお前の知ってる光国ではない。色欲に燃やされた哀れな虫だ

海石榴

どうすればいいかは分かってるな。光国を捕らえ、中の女を引っ張り出す

高明

……はい

光国

行かせるか!!

小瑛

隊長と高明ちゃんだけじゃあらへんで。君の相手はボクや

光国

小瑛……!!退け!!退かねば斬るぞ!!

小瑛

君に撤退を促す気心があったとはね。残念だけど、ボクも退く気はないよ

小瑛

君の下らん我が儘で仲間が死んだなんて、腹が立たんわけないやろ。なんならここで首刎ねてもええねんで?

光国

……上等だ

小瑛

隊長はどうぞお先に。この野郎は生け捕りですよね?

海石榴

ああ。頼むぞ小瑛

光国

待て……!!

小瑛

よそ見してる余裕あるんか自分?

光国

貴様ら……!!

光国

えっ……?

小瑛

なんや、今のバカでかい羽音は……?

夕陽が落ち、夜が訪れる

そんなタイミングで――――

パンデミックが起きた。

光国

黒点死番蝶……

小瑛

死番蝶の王……やと……!?

海石榴

高明、急ぐぞっ!!

高明

は、はいっ!

光国

くっ……喬を守らねば……!!

小瑛

こんな状況下でも女の事しか考えられんのか。たいがいにしたらどうや自分!?

光国

黙れっ!!

小瑛

があっ…………!!

光国

……喬!!

光国

どけええええええぇぇぇぇぇ!!

光国

くそっ……!!

光国

えっ…………?

…………

光国

喬……何をしている!危険だから中に入れ!!早く!!

…………

海石榴

…………貴女はっ

高明

…………

…………

光国

何をする気だ……喬

さあ、目覚める時間です

光国

あ…………ああ…………っ

ああああああああああああああああっっ!!!!

蝶が
大量の黒点死番蝶が


私の愛した女性を食い散らしていく。

それなのに、彼女は悲鳴すらあげず、ただ食われるがまま。


私も 隊長も 高明も

ただ、何もできずに呆然としているしかなかった。

見よ




これが転げ落ちた結果だ。

あまりに無残な、地獄の宴だ。








こんな結末を、誰が望んだというのだ

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